クトゥルー神話の形式 6 召喚型

 《召喚型》を今回は取り上げます。

 異界のものの召喚を阻止するという型です。

 妖術師vsゴーストハンターの型と言えばわかりやすいですよね。これもクトゥルー神話らしいパターンと言うことができますが、クトゥルー系以外のゴーストハンターものにもあり得る型です。


 この型の基本となるラヴクラフト作品は「彼方より」です。

 「彼方より」は、ある科学者が人間の知覚力を増大させる機械を開発していた。だが、その機械の作動は異次元の怪物を呼び寄せることにもなった。実験に立ち会っていた友人の手で機械は破壊されることに、といった話です。

 召喚の方法が魔術的なものではなくて機械が用いられているところが少し変わっています。


 他に《召喚型》のラヴクラフト作品では、「ダンウィッチの怪」や「チャールズ・デクスター・ウォード事件」があります。

 「ダンウィッチの怪」は、ダンウィッチと言う辺鄙な村で、ある女性に父親のわからない子供が生まれる。その子は異様に速いスピードで成長した。青年になると妖術の知識を集めはじめ、ミスカトニック大学の図書館へ侵入しようとしたところを番犬に咬み殺される。その死体を調べると異様な怪物の姿だった。アーミティッジ博士は残された日記を調べると、もう一体の怪物が存在することを知る。それは透明巨大な怪物で、すでに村へ出て人を襲っていた。怪物は父である邪神ヨグ=ソトースを呼び出そうとしていた。アーミティッジらは魔術を用いて怪物を退散させるのだった、という作品。

 「チャールズ・デクスター・ウォード事件」。祖先について調べていたチャールズ・ウォードは、悪い噂のあったジョウゼフ・カーウィンが自分の家系であることを知る。カーウィンは妖術にかかわる実験を行っていて町の住人らに殺されていたのだ。古い屋敷でカーウィンの残した暗号文書を発見したチャールズはその解読に熱中し、欧州にまで足をのばす。帰国したチャールズは、部屋の中で呪文を唱えるなど奇行が目立つようになり、やがて人格が別人のように変わってしまう。チャールズの治療を依頼された医師ウィリットはチャールズが買い取ったバンガローの地下に異様な実験室を発見する。そこはかつてカーウィンが所有していた土地だった。残されていた手掛かりからウィリットは謎の霊的存在を復活させる。この霊はウィリットにカーウィンを殺せと指示する。チャールズは、妖術で復活させたカーウィンによって秘かに殺害され、外見がそっくりなこの祖先が入れ替わっていたのだった、という作品。ジョウゼフ・カーウィンがヨグ=ソトースを〈招喚〉していたという描写もあります。


 他の作家の作品ではヘンリイ・カットナー「セイレムの恐怖」やオーガスト・ダーレス「闇に棲むもの」が挙げられます。

 「セイレムの恐怖」は、小説家が仕事に集中するためにセイレムで家を借りる。地下室を調べると、壁に抜け穴があるのを見つける。その奥は〈魔女の隠れ部屋〉であるらしかった。小説家はそこを仕事場とする。噂を聞きつけて訪ねてきたオカルティストが彼を心配する。その夜、有名な魔女の墓が荒らされ、ふたたびあらわれたオカルティストは立ち退くようにと警告する。小説家は魔女の部屋でいつの間にか眠ってしまう。夜中に目覚めると、そこへミイラのようなものがあらわれ、黒いアメーバのような怪物を呼び出そうとする。が、駆け付けたオカルティストのおかげで事なきを得たのだった、という話。

 「闇に棲みつくもの」は、失踪した教授を探すため、二人の大学生が森の奥にある湖畔のロッジに宿泊することになった。その辺りでは過去にもたびたび人が消える事件が起こっていた。調査の間にセットしておいた口述録音機には、人のものではない異様な叫び声に加え、教授からのメッセージが記録されていた。自分はナイアーラトテップに捕らわれているのでクトゥグアを呼び出してくれと言い、必要な呪文も吹き込まれていた。その後、教授本人が二人の前に姿をあらわすが、それは闇に棲むものの変装だった。二人は呪文を使い、森を焼き払うのだった、といったもの。この話では邪神の侵攻を阻止するため人間側が敵対する存在を召喚します。言わば〈対抗召喚型〉ですね。


 《召喚型》のだいたいのパターンは次のようなものです。


  〈調査を始める〉 → 〈怪異の予兆〉 → 〈怪人物の出現〉 → 〈召喚の阻止〉


 〈調査を始める〉は、何らかの調査を始めます。はじめから怪現象にかかわる必要はなく、自分の祖先についてとか、引っ越してきた家についてとか、そういったものでもよい。

 〈怪異の予兆〉は、怪異がおこりつつあるという何らかの予兆。単なる噂話みたいなものでも可。

 〈怪人物の出現〉は、この怪人物が召喚を行う妖術師ですね。はじめからこの人物を調査するという形にもできます。

 〈召喚の阻止〉は、ゴーストハンター的な人物を登場させてもいいですし、凡人の主人公が自分で何とかするというパターンもあります。


 この《召喚型》は、ここで挙げた六つの型のうちで唯一、人間側が勝利できるタイプです(SAN値は下がるかもしれませんが)。

 そういう意味ではクトゥルー神話的というよりもヒーローものや探偵もののパターンに近いですね。そのぶん応用が効くというかネタが探しやすい型と言えるのではないでしょうか。

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