14話 もちろん手錠は外れません
「やっぱりあんたら演劇部の回しもんだったのか―――――!」
渾身の絶叫を廊下に響かせた。
「なはははははは! やっぱええリアクションやなー、あんた。昨日の裏庭の時からずっとあんたのファンやってん。うちは二年二組の
笑いながら目潰しかと思うほどのキレと速度でピースサインを突き出してくるコ●ンの犯人。
あんた先輩だったのか? 妹の
「ぬふふふ、坊や。その節はどーも。確か、瀬野君だったかしら?」
そんな可愛い可愛い茶村さんに返事を返す間もなく割り込んできたのは、二時間前に他界したはずのイケメン将棋部………なんだけど。今、『かしら』って言ったよな?
「あら、なに? キョトンとした顔しちゃって。死んだはずの人間がこうして喋ってるのがそんなに不思議かしら? おほほほほほ。ま、あたしの演技は完璧だもの。騙されるのも無理ないわ。あたしは二年一組のミシェル
いや、騙されてねーし。僕が困惑してるのは、何て言うかその………カテゴリー?
男なんだよね? 言葉と見た目は女だけど、制服が男だもんな。あと、顔も髪も完璧な日本人だけどミシェルって………え?
「そして、わたしがサンデーゴリラの副部長の
早い早い、自己紹介のペースが早いって! まだミシェルさんのキャラも消化できてないのに。えっと、あなたはあれですよね。占い師やってた人ですよね? ホントに占い出来たんだ? 確かに前髪ぱっつんの直線的なロングヘアといい、青白い肌といい、くまべったりの大きな目といい、霊能力持ってそうな感じだけど。
ええっと、そんで、あと誰だ? 部長? いたか、そんなやつ………。
「こらこら、矢継ぎ早に自己紹介すんじゃねーよ。少年がテンパってんじゃねーか」
キャラも押しも強い女子(?)部員達の後ろから眠たそうな声が上がる。
「瀬野だっけ? わりーなー、女どもが騒がしくてよ」
緩慢な動作で部員達の間に割って入ってくるのは、ひょろりと背の高い天然パーマ。
「ってあれ? 先輩、あの時の!」
「うひひひ。会いたかったぜ、少年」
「何、一光。この子と会ったことあるの?」
聞いてないわよとばかりにお鈴さんの目がギラリと光る。
「言ってなかったか? まあ、いいや。ほれ、少年。立ち話もなんだから中に入れや」
一光さんは肩を組むというよりはぶら下がるといったふうに僕の肩に腕を回し、ダラダラと第二音楽室の中に引き入れた。
「見ろ、瀬野。あれが椅子だ。座ると楽だぞ」
そして、がらんと広い部屋の中央に置かれた長机の椅子を勧め、
「ウーロン茶も紅茶も緑茶もジャスミン茶もみんな同じ茶葉だって知ってたか?」
熱いほうじ茶を机に置き、
「じゃあ、これにサインしてくれや」
入部届を隣に添えた。
「だから早いですって展開がっ! なんすか! 入部届ってなんすか!」
「まあまあ、落ち着けよ。話はこれにサインしてから始めようや」
「終わるでしょ! これ書いちゃったら話全部終わるでしょうが!」
「ん? だって、お前うちに入部しに来たんだろ?」
「違いますよ! これですよ、これ!」
手首にがっちり食い込んだ手錠を叩いてみせると、一光さんは眠そうな目を触れるほど鎖に近づけ、
「おお、泥棒と刑事の役作りか。感心な新入部員だな」
もー、いいからぁぁぁ! そーゆーお約束のボケとかいいからぁぁぁ!
「桃紙さんに手錠で繋がれて、無理矢理連れて来られてんですよ!」
「はあ⁉ ガミエ! あんたそんな強引なことしたの?」
ガミエ……流れ的に多分桃紙さんのことだろう。後輩の愚行を聞かされたお鈴さんが激昂して机を叩く。ああ、そうだろう。ここは怒らなくちゃいけないところだろうとも、副部長として。
「よくやったわー。早くもうちのカラーに馴染んできたじゃん。よしよし~」
「えへへへ、ありがとーございまーす」
なぜ褒めるぅ~。なぜ撫でる、頭を~~。全くお約束の好きな連中だな。
「まあまあ。そんなカッカすんな、少年。ここへ来たのも、アレだ。なんか不思議な縁があってのことだろう」
「違います。鎖です。物理的な鎖があってのことですよ」
一光さんの眼前で手錠の鎖とジャラつかせる。
「ははは。そうかそうか、そうだったな。わりぃわりぃ。謝るからそんな怒んなよ。おい、ガミエ。もういいから手錠外してやれよ」
「あ、はい。鍵って確か、小道具ボックスの中ですよね?」
一光さんに促され、棚に置かれたクリアボックスをゴソゴソと探る桃紙さん。
「うん? そうだったか? そっちのロッカーじゃなかったか?」
そう言って一光さんが立ち上がり、
「違う。机の引き出しよ」
お鈴さんが事務机の引き出しを引き、
「あら、そうだったかしら? あたし衣装ケースの中で見たわよ」
「ちゃうちゃう。前使った衣装のポケットに入れっぱしになってるんやって」
ミシェルさんとちゃーさんが別々の場所を指し示す。
そして待つこと数分、各々が各々の心当たりを心行くまで探った結果………。
「瀬野、お茶のお代わりいるか?」
一光さんが湯呑にお茶を足した。
「なくしたんか―――――――――――――――――いっっ!」
再び僕の絶叫が音楽室に木霊した。
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