最終話 ヒキニート、就職

 俺はショッピングモールを一人でさ迷っていた。とは言え目的地はしっかり決めている。むしろ歩き回ることで考えをまとめようとしていた。途中、書店に寄って、普段は買わないであろう『絶対に響くフレーズの法則』みたいな感じの本を立ち読みしまくっていた。

「慣れないことはするもんじゃないな」

 おとなしく帰宅するために電車に乗る。待ち時間でさえも有効に使わなければならない。我ながら、なんだか意識高い系みたいだな……


「ただいま」

「おかえり。あれ、なんだか疲れてるね。大丈夫?」

 子猫のように心配そうな瞳を俺に向けてくれる。今のでちょっと癒された。

「今日は豚の生姜焼きだよ」

「なんだかなつかしい懐かしいな」

「もお、そのことは忘れてよ~」

 付き合いたての綾香はなぜか豚の生姜焼きしか作れなかった。時の流れを感じるな……

「なあ綾香、俺たちって幸せだよな」

「当たり前じゃん。変な歩くん」

 ふふふと笑ってご飯をよそおう。俺もただ感慨深げに座ってるだけではいけない。箸やお茶を淹れたりする。

 やっぱり綾香の料理はおいしい。見え見えの隠し味・愛情が利いてる。


「明日の誕生日のお祝いに、デートしよっか」

「ええっ!良いの?ありがとう」

 そう、明日は綾香の誕生日。俺は入念な脳内シミュレーションを幾度となく重ねてきた。いける、絶対にいける。そう暗示をかけて眠っていった。


「デートなんて久しぶりだね」

「まあ実質、毎日デートみたいなもんだけどな」

「えへへ、そうかもね」

「かわいいよ」

「恥ずかしいよぉ~」

 俺たちは水族館に行くことにした。綾香がクラゲを見たいそうだ。

 色とりどりの魚が自由に泳ぎ回る大きな水槽やクラゲなどが泳ぐ小さな水槽。多種多様な魚たちに囲まれて、綾香も海の仲間の一員のようにはしゃいでいた。

「ぷかぷか」

「なにそれ」

「クラゲさんのマネ」

「ハハハ」

「ぷかぷか」

「ハハハハハ」


「あっという間だったね」

「あのさ、綾香。誕生日おめでとう」

「ありがとう!これプレゼント?」

「そう、それともうひとつあるんだ」

 心臓の鼓動が危うく綾香にも聞こえそうなくらいに心拍数が上がっていた。ヤバい。

「なになに」



「俺と、結婚してください!!!」

 綾香は目に涙を溜めて、誕生日プレゼントを持つ手を俺に差し出す。俺はガッツポーズをしそうになったが、なんとか抑え、指輪をはめる。うん、ピッタリだ。

「一生忘れられない誕生日プレゼントになったよ!!」

「これからも俺に誕生日を祝わせてくれよ」

「こちらこそお願いします。えへへ」



「みたいな感じでママと結婚したんだよ」

「わたしもパパと結婚する~!!」

「おっ、じゃあパパと百合ゆりちゃんで結婚式開こっか」

「ひらく~!!」

「パパ~百合ちゃん~ご飯できたよ~」

「ママ~パパと結婚してよかった~?」

「うん、パパのこと大好きだもん、良かったよ」

「綾香……!」

「わたしもパパとママが結婚してくれてよかったよ!!」

「百合ちゃんは優しいね~よし!じゃあ晩ご飯にしよっか!」

「うん!!」

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超絶色白美少女・工藤綾香はヒキニート 綾波 宗水 @Ayanami4869

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