第33話 陽子ちゃんの幼なじみ

今日は陽子ヨウコちゃんの幼なじみを紹介してもらう日だ。


小畑オバタ一美カズミの旦那さんの友達を紹介されたあの日から約2週間後の今日、少し前までの私だったら絶対にこんな早くに切り替えできなかったと思う。


前回着る予定だったレモンイエローのワンピースに袖を通す。

控えめなウイングドスリーブ、首元はややオフタートル、そして小さなな花柄で今の時期にピッタリだ。

丈の長さは平均的な身長の人が着たらミディ丈なのだが、背の低い私が着用するとミモレ丈だった。

上にカーディガンを羽織ろうと思ったが、今日の予想最高気温は27度、とてもじゃないが暑くて着られない。


…本当はこのワンピースは前回の紹介のために新調したものだった。

先日は雨だったけれど今日は晴天、濡れて汚れてしまう心配がない。

このワンピースはネットショップで買ったものだ。

佐和子サワコに教えてもらったアパレル通販サイトで、サイズ交換や返品を無料で受けつけてくれるとのこと、似合うものを一緒に選んでもらった。

私にはかわいすぎると思ったのだけど、試着してみて違和感がなく、すっかり気に入ってしまった。

靴はぺったんこな黒のバレエシューズでこちらは手持ちのもの、明るめな色味のワンピースに対し無難ではあるものの華やかさに欠けるような気もした。



——まぁ、いいか…——



あまりにも気合を入れすぎるのは気恥ずかしい、変ではないと言い聞かせ、待ち合わせ場所へと足を運んだ。



待ち合わせ場所は地元の最寄りの駅前で、10分前と早めに到着したのにすでに陽子ヨウコちゃんが待っていた。

クールなショートヘアにパンツスタイルの陽子ヨウコちゃんは昔からカッコよく、とてもよく目立つ。

陽子ヨウコちゃんはこちらに背を向けていて私が近づいているのに気づいていない、

なにやら向かいにいる小柄の年配の女性と話し込んでいる様子だった。



——なんだろう、道でも尋ねられているのかな?——



他人から頼られやすいタイプの彼女だから珍しいことではない。



「お待たせ」



時間より早く着いたのでこのセリフは正しくはないと思うのだが、つい口をついで出てしまった。



「あっ、、ミドリ…」



なんか少し動揺している?

ここで陽子ヨウコちゃんの目の前にいたご婦人が、私の目の前へと進み出た。



「あなたが宮坂ミヤサカミドリさん?はじめまして、正岡マサオカさんのお嬢さん…いえ、今は結婚して早瀬ハヤセさんかしら?こちらの陽子ヨウコさんの近所に住む長谷岡ハセオカでございます、本日はよろしくお願いします」



えっ、これはどういうこと!?と思ったけど、



宮坂ミヤサカミドリです、よろしくお願いします」



とりあえず名乗り深々とお辞儀をしておく。



「ごめんなさいね、さっきまで息子ここにいたのに、どこかへ行ってしまって…」



息子?ってことは、この人は今日紹介される予定の男性の母親かな?と、ピンときた。

陽子ヨウコちゃんと目が合う、『ゴメン』とでも言うように一瞬手を合わせていた。



——これはどういうことになっているのだろうか?——



不安になる。



「ごめんなさいねぇ、私ったらお見合いみたいなものだと思ってしまったのよ」



長谷岡ハセオカ夫人は人のよさそうな笑顔を向ける。

小柄でパーマを当てたショートヘアに銀縁のメガネをかけたどこにでもいそうな年配のご婦人といった雰囲気で、藤色のワンピースを着ていた。



「あれぇ、もう全員揃っちゃったかなー?」



ここで体格の良い男性がヌッと現れた、顔を見て一目で長谷岡ハセオカ夫人の息子だとわかる。



「もう、義文ヨシフミさんったら!今日は大事な日なのに、どこウロついていたのよ!?」



長谷岡ハセオカ夫人は自分の息子を責め立てる。



「うん、ちょっと北口ブラブラしてみたのよ」



最寄り駅は南口と北口とにわかれていて、待ち合わせ場所は南口だ。

約束の時間まで待てずに、どこかへ時間潰しに行ってしまったようだった。



「では、全員そろったところで行きましょうか」



長谷岡ハセオカ夫人が口を開き先頭を歩いたので、仰天する。



——えっ、まさか着いてくるつもり!?——



なんとなく、息子に紹介されるのがどんな女なのか気になって見にきたんだろうな、というのは予想できたけど、確認したら帰るものだとばかり思っていた。



陽子ヨウコちゃんが近寄ってきて耳打ちする。



『ごめんねぇミドリ、今日になってついていくって言い出して』



こんな話聞いてないよ、と言いたくなる。



『でも、3人で予約したんでしょう?』



地元の個室のある創作鶏料理専門店を予約してくれたのは、陽子ヨウコちゃんだった。



『それがね、一人増えたところで大丈夫でしょうってきかないのよ、あのオバさんいい人なんだけど、昔っから強引で』



そんなぁ…嫁になるかもしれない女の品定めにでもきたのか!?

そう思うとみぞおちがキュッと痛くなるような気がしてきた。



宮坂ミヤサカさんも地元の方で本当に良かったわ、息子が結婚して遠くへ引っ越してしまうのは、なにかと不都合ですものね!」



うわ、いきなり地雷臭しか感じないセリフ!

たった数分間で、これから紹介される男性に期待できない気がした…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る