Line 27 詳細を知るために
朝夫が日本の新宿へ向かう少し前――――――――――
「あー…くそっ、画質荒くて解らないじゃねぇか」
リーブロン魔術師学校の宿泊棟にある自室にて、俺―――――――テイマー・K・ラスボーンは愚痴をこぼしていた。
今現在、俺の目の前には技術員の
スマートフォンのゲームアプリを介してミシェルは何者かに操られたが、朝夫が電子の精霊と共に
二人が対峙していた際、一瞬だけミシェルの唇が動いていたから、術に抗って何か重要な事を口にしたのだろうと推測していたが…これでは、何が何だか…
俺は、昨日起きた騒動を思い返しながら考え事をしていた。
情報リテラシーの臨時講師・望木朝夫は魔術師としては現状では未熟な
「…ミシェル本人に訊いてみるしかねぇか」
俺は、その場でポツリと呟く。
当然、自室には自分以外の人間はいないため、その
「…少しは落ち着いたかい?」
「おかげさまで…ラスボーン先生」
監視カメラの映像を見た後、俺は同じ宿泊棟内にあるミシェルの部屋を訪れていた。
自室のベッドに仰向けで寝転んでいた彼女は、少しだけだるそうな声音で俺に応える。昨日の騒ぎを起こした張本人であり逆に被害者でもある彼女は、片づけ等が落ち着くまでは自室で待機し、
「ラスボーン先生、望木先生の容態は大丈夫そうですか?」
ミシェルは、少し心配そうな
「あぁ。今日は直接会っていないから詳しくはわからないが、
俺は、テレビ電話による会議で見かけた時の彼について語った。
何気ない雑談を少しした所で、俺は大きく深呼吸をする。
「さて、本題に入るとするか。今日君の部屋を訪れたのは、いくつか確認したい事があったからなんだ」
「えぇ、承知しています。…最も、私自身は身に覚えのない事でもあるので、どこまでお答えできるかは定かではないですが…」
ミシェルは、少し申し訳なさそうな口調で答える。
そして、彼女の
ミシェルの話によると、ローラーホッケー大会が終わった頃より“生徒達の間で流行っている”事から絵しりとりアプリの存在を知り、休憩時間等でスマートフォンにインストールして遊んでいたらしい。そのゲームアプリはオンラインで遠くにいる他人とも遊ぶ事ができる物で、“インセック”というユーザー名と知り合い、時折絵しりとりをして遊んでいたらしい。
「そして昨日、いつものようにインセックと絵しりとりをしていたら…しりとりになっていない紋様のような
「成程…。じゃあ、その“紋様のような
ミシェルの話を聞いた俺は、腕を組みながら相槌を打つ。
具体的な仕組みは解らないが、アプリ自体に魔力が仕込まれていたりしたら、紋様をスマートフォンの液晶画面に書き込むだけで術を遠隔発動できるという事か…
俺は考え事をしながら、ダメ元である質問をしてみた。
「流石に、昨日目にした紋様とやらは残っていないよな?」
「はい、すみません…。紋様を目にした後、意識はあったものの、身体が思うように動かなかったので、スクショに残す余裕もなかったですね」
「いや、無理言って悪かった。…って事は…!」
俺は、できないであろう事を訊いてしまったので、少し俯いて謝罪する。
一方で、ミシェルの
「私がかけられた術はおそらく、“対象の肉体のみ操る術”だったのでしょう。そのため、学内を走り回った記憶は鮮明に残っているんですよね…」
俺が何を口にしようとしたか察したのか、ミシェルは顔を少し俯いた状態で自身にかけられていた魔術について語る。
“対象を操る魔術”というのは2種類存在し、一つは身体も
「覚えているとなると…ミシェル。朝夫が君に
「!!」
俺の質問を耳にした彼女は、目を見開いたまま一瞬だけ固まる。
その後、顎に指をあてながら考え事をし、ほんの数秒ほど沈黙が続いた。
「意味はよくわからないけど……」
少し考えて思い出したミシェルは、朝夫に対して口パクで言った内容を教えてくれた。
その内容は、俺を含む“一部の人間”でないと解らない内容だったのである。
『あの瞬間、私は望木先生の方をずっと注視していたから、彼に対して述べた
ミシェルの部屋を出た後、俺は出る少し前に彼女が教えてくれた言葉を思い返す。
「ミ」・「ツ」・「ケ」・「タ」…。それはきっと、日本語の「見つけた」を指すはずだ…。という事は…!!
眉間にしわをよせた俺は自室ではなく、別の場所へと移動していた。
ミシェルが朝夫に対して口にしていた言葉―――――――――――――――日本語を話せない彼女からすれば、その4つの発音が何を意味するのかは解らないだろう。そんな対象が知り得ない言語を使ったのは、一重に日本人である朝夫に対して述べた言葉としか思えない。俺は、自身が母国語である英語以外も理解できる人間であることを幸いに感じていた。
「あれは…」
向かった先である朝夫の部屋へ到着しようとした際、俺は扉の前に立つ人物が目に入る。
それは、リーブロン魔術師学校の事務職員であるマヌエルだ。
「マヌエル、どうしたんだ?」
俺は、朝夫の部屋の前に立つマヌエルに声をかける。
すると、俺の声に気が付いたマヌエルがこちらに視線を向けてきた。
「あぁ、ラスボーン先生。昨日までの一週間実家があるドイツに帰省したので、お土産を職員の皆さんに配っていたんですよ」
そう答えるマヌエルの手には、ハリボーグミが入ったトートバッグが握られていた。
「その様子だと…留守って事か?」
「ノックを何度かしましたが、応答がなかったのでおそらく…」
俺は、マヌエルの
偶然という事もあるが、臨時休校である本日は教室棟が封鎖されている事もあって、教職員は基本的に自室にいるよう指示が入っているはずだ。そして、現在が午前の10時頃のため、昼ご飯を食べに食堂へ行くにはまだ早いし、食堂自体も昼食の準備で一旦閉鎖している時間帯に当たる。
「今日って、校外への外出も基本禁止…だったはず…。そして、緊急の用事等で外へ出たい場合は管理棟へ問い合わせが必要なはずだが、朝夫から連絡は…?」
「ないですね…」
「…っ…!!」
マヌエルに確認するように話しかけた後、俺の脳裏に嫌な予感がよぎった。
「マヌエル、
「え…?」
俺の
「緊急事態っぽそうだ…ひとまず、管理棟へ行って合鍵を持ってきてくれ…!!」
「は、はい…!!」
“緊急事態”という言葉に反応したのか、俺の指示を聞いたマヌエルは、急いでその場から走り去る。
宿泊棟にある生徒及び職員の部屋にある扉は、職員だと職員証が部屋の鍵になっている電子ロックがかかっている。加えて、外部からの不法侵入を防ぐために開錠の魔術が使えないよう対抗術式が組み込まれていると聞く。そのため、部屋の利用者以外で扉を開けるには、管理棟で事務職員が管理している“合鍵”といえるキーカードでしか扉を開ける事ができない仕様となっている。
もしかしたら、“奴ら”が動き出したのかも…!!?
その場で立ち尽くす俺は、自身の心臓が強く脈打っているのを感じていた。
リーブロン魔術師学校の外部と内部両方で仕事をこなす俺は、ある意味魔術師や人間界隈の“裏”にも足を踏み入れた事がある。そのため、きな臭い事をしようとする連中にも心当たりがあり、もしかしたら朝夫が巻き込まれたのではないかという仮説を立てていた。
とにかく、“部屋の中”を確認してみないと何とも言えないし動けないな…!!
俺はそんな事を考えながら、マヌエルが戻ってくるのを待つことになる。
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