4−9

 篠乃様、とそこに声がかかった。

 桜と蘭が二人して部屋へ駆け込んでくる。

「奴らの陣地近くまで、全員追い返してやりました!」

「暫くは襲ってこないと思うよ」

 次々に報告をする。

 子供の姿をしているが、力が強く長寿だというのは本当なのだろう。しかし、制服姿の頬や膝にかすり傷を作り、自信満々に言い切る姿は遊んできた子供のそれだ。

「ありがとう、桜、蘭。助かったよ……傷の手当をしてもらいなさい」

 篠乃が優しく声をかけた。それだけで二人は感激した様子で、『はい!』と元気よく返事をした。

 去り際に加那たちへと手をひらひらと振って二人は部屋を出ていった。

「さて……」 

 篠乃が加那へと向き直る。

 軽く頭を下げるとその姿勢のままで言った。

「加那さんには、実は……もう一つお願いしたいことがあります」

「私に?」

 はい、と篠乃は加那を正面から見つめる。

「今ご覧ただいたように、青龍は私達と敵対しています。隙きあらば襲ってくる……という風でしょうか。この度は特に、白虎と私達朱雀が手を組もうとしていることを知っての暴挙でしょうが。──そこで、私達は仲間を増やしたいと考えています。残りの玄武一族。彼らとコンタクトが取りたい」

「もしかして、それを私が……?」

「ええ、そうです。まだ詳しい所在は分かっていない一族ですが、北関東のとある村近くにいるのではないかということまでは分かっています。もしもっと詳しいことが分かれば……さらに危険がないと判断できれば、加那さんに特使をお願いしたいのです」

 満が横から加那さん、と心配げに声を出す。

 篠乃が満に微笑んでみせた。

「今すぐに、というわけではありません。調査にもう少し時間がかかると思います。その間に私が体調を持ち直し、行ければ問題ないのですが……少し長い距離の移動になるはずです。私が行けない万が一の時に、加那さんにお願いできれば有り難いのです」

 加那は頷いた。

「はい、私に篠乃さんの代わりが務まるかどうかはわかりませんが……」

「……僕も、その時は同行しても良いですか?」

 満が加那の横で身を乗り出した。

 篠乃が頷く。

「その方が良いでしょう。玄武は謎の多い一族です。他の一族と接触を絶って長い……色々と加那さんや満さんが不思議に思っていることも、分かるかと思います」

 綾が部屋の隅から控えめに声を出した。

「加那様、私達もどうか同行をお許し下さい」

「ああ。何があるか分からない……同行させて欲しい」

 東吾も頷く。

「綾さん……東吾さん……」

 振り返った加那は、戸惑って篠乃を見る。篠乃は笑って、加那へ頭を下げた。

「お話を受けていただいてありがとうございます、白虎のご当主。……彼らはもう、白虎の被人です。お好きにお使いください」

「わかり、ました」

(私が……被人を使う……)

 加那はぎゅっと手を握った。人間と見た目の変わらない彼らを使役する。満さんとは主従と言っても友人のような関係を築いていただけに、加那は僅かに戸惑った。

 篠乃は頭を下げたまま続ける。

「また、詳しいことが分かれば連絡いたします。その時はよろしくお願いいたします」

「はい……」

 加那も慌てて頭を下げた。 

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人繰りの白虎姫 河野章 @konoakira

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