第24話 下山

 自然の匂いを全身にまとわせて体に枝草が当たるのを一切気に留めず降りる山道。

「ちょっと! 早いって!」

「頑張ってレイカ」

「遅い!」

「レイカさん! 急いでください!」

「はい、急いで!」

 肩で息をするレイカの悲鳴に俺もリリスもシエテも、フェネアさんでさえ雑に返して山を下っていく。

 言ってしまえばこれからが本題なのだ。

 俺達は今、魔森地へ向かってい。


「ちょ、ほんとマジで」

「うっさい! はしれ!」

「ちょ、ほんと厳し過ぎだから!」


 重くなった足どりで助けを求めるレイカもリリスから飛ばされる檄で悲鳴を上げながらついてくる。

 その姿からは最初会った頃の、少しの訓練でダウンして喚いていた姿は見えない。今日は討伐をしてからと、かなりハードなのだがそれでもしっかりとついてきている。


「ありがとねリリス」

 そういえば、こちらを向いて軽くウインクをしてくるリリス。

 予想通り、何かの補助魔法をかけてレイカが動きやすいようにしていたらしい。

 

 リリスがさりげなく手助けをするということは今回レイカは、少しはリリスのお眼鏡にかなったのかもしれない。


 そう思えば今回の任務自体、結果は良好といえるだろう。

 後は、


「魔森地まであとどれくらい?」

「あと一時間ほどですね」

「よし!」

 目の前で張りきった様子で駆ける、二人のエルフの後を追うだけだ。


*******


「服従してるわね」

「うん」

 目の前で背中を地面に擦り付け、お腹を見せてくるバーサークタイガーを見てリリスの放った言葉はそれだった。

「え、どうなってんの!?」

 フェネアさんはただただ、リーダー格の魔獣のこの行動に驚いているが俺も本来だったら驚いただろう。しかし、

『グア!』

 頭の中で、サムズアップをして見せるグリドが浮かべば、あながちおかしくは思えない。

 一生懸命服従のポーズをとるこの魔獣を、周りの他の魔獣たちも同じポーズをとることで肯定している。

 要は、残っている者たちにはもう戦闘の意思はないのだろう。

 それか、穴に隠れていたのだから元々戦いの意思はなかったのかもしれない。

 ただこうなってしまえば、俺だって戦闘の意思はない。

 襲ってこないものを魔獣だからといって討伐するほど割り切れてはいないから。


「前もこんなことあったし」


 初めて村に来た時のバーサークウルフは、リリスが降伏させ逃がせたし。

 

「シエテ任せた」

「はい」

「では聞いてください」


 グリドの時を考えれば、おそらく魔獣への説明もシエテが適任だろう。

 幸い、魔獣たちも完全に闘志が抜けきっているためにおとなしくシエテの説明を聞いてくれている。


「ちょ、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫」

「で、でもかなりの危険種よ」

「あぁ......大丈夫」

——もっとヤバい奴に会いに行くから


 危険度で言えばさらに危険な奴が魔森地にいるのだから。

 今大事なのは、早く魔獣たちを説得してもらい魔森地に向かいエルフ達に会うことだろう。

 シエテが魔獣たちに説明しているのを視界に止めて置きフェネアさんに視線を向ける。


「で、魔森地のそばに村があるんだけど.....


*********


「よし! そろそろ魔森地ね!」

「ああ」

 ルーティオン村へ続く最後の山の山道を駆け抜ければ、確かに魔森地がそばに見えてきた。


——こうやって見ると物々しいな

 普段、最寄りの森が魔森地なので違和感なんて感じなかったが、こうしてほかの山々を超えてくれば明らかにこの森が普通でないのが伝わってくる。


 ただ、この森のおかげで国も下手に干渉してこないからこの森をどうにかしようとは思わない。


「あ、道だわ!」

「ん?」

「あ!」


 道、そういわれて山道ではないのかと思ったがそうではないようで、木を切り倒してしっかりと整備された道が目の前には広がっていた。


——あいつ、こんなに広げてたのか

 この道の作りからして、この道の先にいるのは間違いなくグリドだろう。

 冒険者を呼ぶために整備した道なのだから。


「ここ! エルフの印があるわ!」

「これが?」

「そうよ! てかこの森何なの!? 通信魔法が使えない」

 仲間の痕跡を見つけたからか、焦った様子で魔法を唱える彼女は魔法が起きないことにただただいら立つが、どんなに唱えても魔法は使えない。

 おそらくこれは、俺とリリスとで張った結界が影響しているのだろうがここでは控えておく。

 村のそばの部分のみに掛けた結界だが、かなり時間と手間をかけて組んだ結界なので、できる限り解きたくはない。


 ただ、このグリドの挑戦者募集の道に印があるということは、


「も、もしかしてエルフの中に男いる?」


 嫌な予想を一杯にし、そんな質問を俺はした。


 


 

 



 

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