第19話 エルフの女

 エルフは森の民であり森の守護者、そう考えられている。

 考えられているというのは実際にエルフから聞いたのか怪しいこと。

 それこそ、ダークエルフであるシエテはかなり希少な分類になるのだが、エルフもその類には漏れずに出会えたら珍しい、そんな存在だ。

 

 だから、曖昧な情報の多いエルフの情報だが、リリスとシエテ伝えにそう聞いているので俺としては、ほぼ核心を持って森の民という認識を持っている。

 何よりエルフであるシエテが言っているのだから真実なのだろう。

 つまり、ここまでで何が言いたいかといえば、

「放しなさい!」

 男だったはずのものを組み伏し、その上に馬乗りになったが女性だった。

 その一言に尽きる。

 エルフ特有の美貌。普段、贔屓目なしに圧倒的に美人なリリスやシエテを相手にしていても、俺の下にいる女性は美人だろう。

「は、放して!」

「いやそれは...」

 だからこそ、下から睨みと共に美人に言われれば、非は間違いなく相手にあるはずなのに、こちらが罪悪感に苛まれてしまう。

 罪悪感にさらされるが、ここで離すわけにはいかない。

「ちょ、放しなさい!」

——もはや俺が悪いのだろうか

「黙りなさいエルフ!」

「ひっ!?」

 足をずっとばたつかせ体をくねらせていた彼女もリリスの一喝でその動きをやめた。

 というよりかは、力を完全に抜いたのがわかるに、殺気がいまだ健在なリリスの言葉に放心したのかもしれない。

「レント、大丈夫?」

 もはや一切エルフを気に留めていないのか、ゆっくりと近寄ってきたリリスが首筋に手を添えてくる。

 血を出したばかりだからか、熱を持っていた首がリリスのひんやりとした手で冷まされていくのがわかる。

 おそらく治癒魔法でもかけてくれているのだろう。

「...んで」

 か細い声が聞こえた。

「...な...よ」

 それも、まさに今組み敷いている女性から。

「...なんで...」

「は?なに?」

 なんで、そう確かにつぶやいた彼女にリリスがきつめに聞き返した。 

 次の瞬間

「なんで!」

 しっかりと敵意のこもった視線を俺に彼女は向けてきた。

 明らかに状況のみを見れば、圧倒的に彼女の方が不利だ。

 敵意を丸出しにしていいような場面でも、おそらくそれをやって見せる実力もこちらの戦力に対していえばないといっていいだろう。

 それなのに、そんな状況なのに彼女は。

「なんで人間の味方なんてするのよ!!」

 そうしっかりと叫んだ。


「人間なんて! 人間なんて!」

 涙で顔を濡らし、嗚咽交じりにそう叫ぶ彼女には俺から掛けられる言葉なんて見つからない。

 聞きたいことはしっかりとあるが、この状況を見るに俺が彼女に声をかけるのは最も適さない人選だろう。

 それに、何となくで察したふりをして彼女と話すのはよくないだろう。

 だからここで、最も話役に適しているのは彼女しかいないだろう。


「レントさん私が」

「任せた」

 そう。シエテしかいない。

 レイカと共にこちらをずっと窺っていたシエテが、徐々にこちらに歩み寄ってくる。

 シエテがちょうど俺の前にくると、シエテとは入れ替わりで、殺気強めのリリスは俺の後ろへ。

「あんた、やっぱりダークエルフね」

「ええ」

 下敷きのままで会話を始めるエルフだが、シエテの姿を見たからか、そこにはさっきまでの半狂乱な姿はない。

 シエテがちょうど膝を折り、彼女に違づいた時女性も口を開いた。

「なんで、人間と共にいるの?」

「レントさんは私の家族です」

 疑心と怒りの混じったような声で言われた質問にシエテが端的に答える。

 エルフから出されている威圧感などは全く気にするような様子がなく、じっと答えた。

「家族? 笑わせないで! こいつら人間は屑よ!」

 そんなシエテの言葉をあざ笑うように語気を強め、そう言い放った彼女の目に明らかに怒りがにじみ出ているが、それでもシエテは怯むことなく彼女を見て、

「そんなことはありません!」

 そう、言い切って見せた。

 

「確かに、確かに人間の中にはよくない人もいます」

「みんなよ! みんな!」

「みんなではありません」

「そんなわけがないわ!」

 シエテの言葉を受け、激高していく女性にシエテが諭すように返していくも、彼女の怒りは収まらない様子だ。

 ただ、

「いえ、少なくともレントさんは違います」

「レントさんは、私を家族だと言ってくれました。 身寄りのなかった私を迎えてくださいました」

「...」

「何があったんですか」

 ゆっくりと、しっかりと言い聞かせるようなシエテの言葉は俺にも響いてきた。

 それこそ、普段彼女が俺たちに接するときも、時折お礼を言ってくれる時にも、こんな思いをしているのだと彼女の口からきけば、色々なことを考えてしまう。

「わかった。 ただその前に」

「ん?」

「いい加減どいて! 苦しい!」

「あ、ごめん!」


 確かに女性にずっと馬乗りというのは不味かったと思う。

 さっきまでの棘が少しばかり丸くなった、彼女の言葉を聞いて腰を上げる。

 彼女の言い方にリリスは少しいらッとしているようだが、その点に関しては俺が悪いのでしかたない。


「あ、立てる?」

「,,,ありがと」

 

 地面に身体を放棄していた彼女に差し出した手は、断られると思ったが意外にも握ってもらえ彼女が立ち上がる。

 変身が解けたからか、身長は縮んだようで俺より少し小さいシエテぐらいの身長になっていたが、やはり見下ろしていたあとからこうやって立ち姿をみても、やはり美人だ。

 それこそ、身体付きもきれいだということがわかる。


「あんた、名前は?」

「え」

「あとあんたも...あと貴方様も...」

 地面に組み伏せてしまったからか、髪につけていた土を払いながらそう聞いてくる彼女。

 ただ、リリスへの反応を見るに苦手意識がしっかりと根付いてしまったようだ。。

「シエテです」

「レントヴァンアスタです」

「リリスよ」

「あ、レイカです」

「あんたも人間なのね。 人間に悪魔にエルフ,,,」

 そう独り言のように漏らしながら俺たちを一周していく視線。

 シエテの見た目や俺とレイカのことはあるにしろ、リリスを悪魔と分かっていることから見るに、知識があるのか経験があるのか。

 こちらが逆に不安を覚えたとき、

「わかったわ。 レントあなたを信じてみます」

 俺達をじっと決意のこもったような視線で見た彼女は、

「貴方たち人間は約束を破りました」


 そう続けた。


 


 


 

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