第5話 小さな春の謎5

僕にはほんの少しだけ周りの人とは違う力がある。それは人の夢に入り込むことが出来るという能力だ。ほとんど役に立たない能力の上、対象となる相手とかなり近くで睡眠をとらなければいけないという難儀な性質を持っている。


 そして、目の前で不敵に笑う少女——日月現世たちもり ありせも1つ、常人とは異なる能力を持っている。それは夢の中でも思考できるという能力である。しかも、起きているときの何倍も速い思考速度で考えることが出来るという、僕に比べたら圧倒的に役立つ能力だ。だが、日月現世たちもり ありせという少女にも1つ難点がある——。


 それは現実世界、つまり起きているときの現世ありせは他者とのコミュニケーション能力に難があるのである。ありていに言うとコミュ障なのである、まぁ僕も人のことは言えないが。


 現実世界の現世とは異なり、夢の中での現世は人並みにコミュニケーションがとれる。だから僕は、事件内容だけは起きている現世に話し、真相は夢の世界の現世に聞くのである。


 まぁ、事件の説明も夢の世界で話せばいいのかもしれないが、そうしない理由は目の前の現世を見ればわかってもらえると思う。


「っていうかこんなしょぼい相談なんか引き受けてくるなよー」


そう言いながら、現世は不遜な態度で大きなソファーにもたれかかり、足をバタバタさせている。


「最近、現世のために作ったWebサイト――“ひゅぷのす相談所”にも特に目立った相談も来てないし、ちょうどいい暇つぶしになるだろ」


僕のその言葉を聞くと、現世はむすっとして頬を膨らませた。


「あんまりそのこっぱずかしいサイト名というんじゃない。恥ずかしいだろ」


「その恥ずかしいサイト名の命名者は現世だろ」


僕の反論を聞いた現世は、先ほどよりもさらに頬を膨らませ、足をバタバタさせた。


「決めたのは私じゃない!あのぼさぼさ頭のコミュ障女だ!なーにが眠りの神をモチーフにした可愛い名前だよ、平仮名にした分余計に質が悪い」


現世は、起きているときの自分のことをぼろくそに言う。現世――いやこの場合現世達といった方がいいのだろうか。彼女たちは互いを別の人間だと思っている節がある。

 さらに補足をすると、ひゅぷのす相談所というのは、ネット上の相談窓口のようなもので、僕が現世に頼まれて立ち上げたサイトだ。目的としては困った人を助けたいという大変ご高尚な目的で立ち上げられたのだが、さすがはネットというべきか、胡乱な情報ばかりが書き込まれている。

 

 例えば、不倫がばれてどうにかしてくれという内容、上司がむかつくから何とかしてくれなど。ひどいものになると、ヤンキー同士の抗争で身近で作成できる武器はないか、果ては宇宙人を探してほしいなど、ほとんど相談所としては機能していない。


「というよりバク、君の持ってきた相談も全然大したものじゃあないだろう。っていうか、これくらい君にだってわかるだろ?」


 そう言われて僕はつい渋い顔をしてしまう。


「僕は謎解きとかそういうのはもうしたくないんだよ。藪をつついて出てくるのは蛇だけとは限らないしね」


 現世は、はぁとわざとらしいため息を吐くと、仕方がないなぁというように口を開いた。


「まぁ、君も先生に報告しないといけないようだから、サクッと解決してやるよ。まず、答えから言うと、えーと柏崎?だっけか、彼女の息子は母の日のプレゼントをしようと企んでいるんだよ」


 僕は少し驚いて、母の日?と現世の後に続けて言った。


「もうすぐゴールデンウィークだろう?時期的にもぴったりじゃないか」


「……それと油が何の関係があるんだ?」


 そんな僕の問いに、現世はにやりと笑った。


「彼の息子は母親にハーバリウムを贈ろうとしているんだよ」


 僕の表情を見て、全くぴんと来ていないことを察したのか、現世はハーバリウムに関して説明を始めた。


「ハーバリウムっていうのはだね、ドライフラワーを特別なオイルに漬けてガラス瓶に保存するインテリアのことだよ。きっと彼はそれを作っている最中に油をこぼしてしまったんだろうな。まぁ、サプライズで渡してびっくりさせるか、柏崎に教えるかはお前に任せるよ」


 現世は解説終了!とばかりにソファーにさらに深く座り込んだ。そんな様子をみて僕は、先ほどの現世よりも深い深いため息をついて言った。


「そーいうはいいから、を教えてくれよ」

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日月現世は今日も微睡む 一字句 @ichiji-ikku

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