幕間  2

 ――ぼくはただひたすら走った。息が切れて苦しい。それでも止まらない。止まることなんてできるはずもない。全てはあいつらに目に物を見せてやるために。あいつらならきっといつもの公園にいるだろう。目の前の角を曲がったらすぐだ。


 公園の真ん中を陣取る三人の小学生。いた。あいつらだ。遥にあんなことをしたというのに、楽しそうに遊びやがって。年上だろうが許さないぞ。怒りで視界がぐらつく。切れた息を整える間もなく背後からリーダー格の上級生に飛び蹴りを一発くれてやった。続けざまに太った取り巻きの顔面を全力で殴り、ノッポの取り巻きにはそのがら空きの股間を容赦なく蹴り上げてやった。よし、とひとまずの安堵。それがまずかった。奇襲が成功して油断してしまった。背中に衝撃が走り、突き飛ばされた。砂場に頭から突っ込んで、口の中が砂だらけになった。吐き出しながら起き上がり、振り返る。最初に蹴り飛ばしてやったリーダー格の上級生だ。感情が昂ぶり雄叫びを上げながら上級生に襲い掛かる。腹に蹴りを入れ、殴りやすい位置まで下がった顔に拳を打ち込む。しかしその殴った後の隙を突かれ、左右から取り巻き達に拘束されてしまった。振り解こうとするが、がっちり掴まれていて身動きが取れない。それでもなお足掻いていると、骨の鳴る音が聞こえた。前方を見る。態勢を立て直したリーダー格の上級生が鼻血で汚した顔を嬉しそうな表情に歪めて、拳を鳴らしながら近寄ってくる。遥を川に突き落とした時も、そんな顔をしていたのか――そんな、喜色満面な顔を。ぼくの中で感情が怒りから憎悪に変わっていくのを感じる。


 やつの拳がぼくの腹にめり込む。それからひたすら殴られる。殴られ、殴られ。そしてまた殴られる。流石に殴られすぎて、意識が朦朧としてきた。リーダー格の上級生がぼくに向かって何かを叫んでいる。聞こえない。こいつらはもはや人間じゃないんだ。だったら言葉が理解できなくても仕方がない。人間じゃないなら――死んでも何も問題ない。あいつらが死んだ方が遥のためにもなる。そう結論が出た瞬間、憎悪が殺意に変わってぼくはどす黒い感情に支配されてしまった。こいつらには生きる価値なんてない。死んでしまえ。死ね。死ね。死ね。死ね!


「お前たちなんて、死んでしまえばいい」


 ぼくはありったけの感情を込めて言い放った――

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