第23夜 浮き立つ夜

 煙草の煙を吹きかけて、月に雲をかける。 

 部屋に差し込む光は、煙で出来た雲を容易く突き抜け、部屋の一部を優しく照らす。

 月の光は、暗闇で輝き、やがて人を導く希望の光へと変わる。

 俺は希望の光を目印に、暗闇の中を歩き続けて来た。

 右も左もない。

 足場があるかどうかすら分からない。

 それは、不安だが、光から目を逸らさなければ、這ってでも進んでいける。

 だが、行く手を阻む暗闇に、足にまとわりつく無数の手に歩みを止められてしまった。

 望んでいたことでもあるが、疲れてしまった。

「もうあの光に追いつくことはなさそうだ」

 そして、俺が気づいたことがある。

 暗闇で輝く光はすべて、それだけで光っているのではない。

 何かの光を受け継いで、誰かに勇気を与えるために光る。

 光は遠ざかりもしよう。

 なぜなら、それは、歩み続けるものだから。

 あの光は、誰かにつなぐために、誰かが光っている証なのだ。

 俺に出来なかったことを伝えよう。

 そういうと、何かを成し遂げたかのように聞こえるが、何も成し遂げてはいない。

 ただ、そうあろうと、努力はした。

 この期に及んで。

 この期だからこそ。

 レイリとの出会いは、素晴らしかった。

 とても言葉には表せない。

 ただ、そう、素晴らしい時間だった。

 もう、何もいらない。

 そう思わせてくれたものに出会えた幸せが、今もここにある。

 頭の片隅で思い描きながら、生涯で出会う事がないであろうと諦めていた、いや、存在すら疑っていたもの、とても恥ずかしいが、口にする喜びがあるもの、愛。 

 それが、今も胸にある。

 だから、この孤独な場所に耐えられる。

 ずっと月の光を見ることで。

 だが、月は満ちた。

 俺は何かを守るために殺し、殺すことで心に重しを付けた。

 自らの手で、意志で。

 諸君に伝えたいことがある。 

 誰かのために生きるのだ。

 誰かの希望になるために、己が光り輝くのだ。

 辛く苦しい旅路を、お互いの光で照らし合うのだ。

 自分のためだけに生きると、希望の光は見えなくなる。 

 そして、闇に囚われてしまう。

 言ったよな?

 闇の中で暮らすことを知りたければ、闇に生きた者の声を聞けと。

 心からの忠告だ、わが友よ。

 レイリには幸せになって欲しいと、心から願い、強く思う。

 俺にはその権利はないし、もう光は見えない。

 たかが失恋で死ぬ馬鹿がいる?

 ごもっとも。

 だが、言ったよな?

 全ては積み重なるとも。

 絶え間なく降り注ぐ雪の様に。

 春が過ぎ、夏が来ても消えない、降り積もる雪は、心を凍らせ、やがて。

 

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