第22夜 忘れる過去と忘れない未来

 2羽の鳥を壁の上の方に書き足した。

 最近、つがい(男同士もそう呼ぶのか?)を書き足す日々が続いている。

 仲の良い二人なら、三人や四人に勝るんだろう。 

 2人なら、秘密は守られる。

 3人になったら、もうお仕舞いだと言う。

 それは、こちらにとっても同じこと。

 相手が2羽なら、まあ、撃ち漏らすこともない。

 何よりも、1羽目を仕留めた時に、ほぼ2羽目も仕留めてるに等しい。

 考えても見ろ?

 暗い夜道、相棒と2人で歩いていて、その相棒が崖から落ちたら、あんたならどうする?

 当ててみようか?

 まずは、途方にくれるね。

 不安に襲われ、泣きたくなるはずだ。

 これが3人の内、1人が落ちただけだったら?

 残された2人は支え合うね。

 3人の時より、結びつきや慎重さが増すかもしれない。

 今日の2羽は、どういう関係だったのだろう?

 窓辺に立って、寝る前の一服を吸いながら、考える。

 最初から手負いだった。

 似たような髪色で、体を寄せ合うようにゆっくり進んで来た。

 最初は、いちゃついてるのかと思ったが、その足取りの遅さに、右側の背が高い方が足を引きずっているのに気づいた。

 正直、また迷ったよ。

 どちらを先に撃つか。

 あんまりにも遅い歩みなんで、いろいろ考えることは出来た。

 男同士のカップルでないとすると、上司と部下?

 幼馴染?

 恋敵?

 好敵手?

 いや…目を細めてよく観察する。

 兄弟…兄弟か!

 よく見るとよく似ていた。

 双子、ほどではないが、髪質や目つき、背格好、鼻の形。

 そうか。

 それで、俺は右側の方から撃った。

 支えられながら、何度か崩れ落ちていたし、ほとんど引きずられるように歩いていたから。 

 スコープ越しの顔色も、かなり血の気を失っていたから。

 はじけ飛ぶでも無く。

 彼、いや、右側の鳥はゆっくりと膝を着いて正座した。

 左の鳥には逃げて欲しかった。

 だが、多分そうするだろうという俺の想像そのまま、兄貴鳥の横に同じように座った。

 しかも、胡坐で。

 本当に止めて欲しくて、俺は叫びそうになったが、仕事中だ。

 雑に狙ってそいつを撃った。

 弾は、左に逸れた。

 多分弟だろうそいつは、胡坐のままこっちを、じっ、と見返してきた。

 睨むでもなく、唇の端に笑みを浮かべて。

 そいつの口が開きかけたのを見て、俺は撃った。

 何か叫ぶかも知れない。

 あるいは、大声で笑おうとしたのかもしれない。

 どちらにしろ、御免だった。

 そういう物を見せられて、明日も生き抜く自信がない。

 もう、目標は見えかかっているのに、ここで中途半端に終わらせる訳にはいかないんだ。

 煙草の煙が、目に染みて、目を擦ると、指が濡れていた。

 今日は、月がキレイだ。

 雲も星も寄せ付けないほどに。 

 1本で終わる訳がないと、念のために耳に挟んだ煙草を咥え、火を点けると、後ろを振り返った。

 鳥の壁が、月明りに照らされて青白く光っている。

 記録することだ。

 出ないと忘れちまう。

 俺は、数を数えているんじゃない。

 過去を忘れると、進むべき未来が分からなくなるから、記録しているだけだ。 

 もちろん、未来は忘れないが、時に、曲道に入る誘惑に負ける時もある。

 記録することだ。

 だが、全てを記憶するな。

 でないと、気が狂う羽目になる。

 

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