第10夜 鳥撃ちの仕事

 難しい事じゃない。

 何だって、基本そうなんだ。

 仕事、ってやつは、だ。

 ただ、まあ、達成度合とか、期待値だとか、結果だとかは、別の話だ。

 スパン、はあるにしても、究極的には、仕事には終わりはない。

 あるのは、リタイアだけだ。

 俺の仕事は、村外れから歩いて4時間はかかるこの塔で、戦争している敵陣営の兵士が村に近づくのを防ぐ、それが無理なら、早めに狼煙を上げることだ。

 なっ?

 簡単だろう?

 達成というのがどこにあるのか分からないが、今の所、真面目に取り組んで、どうしようもないことにはなっていない。

 ひょっとしたら、何人か、失礼、何匹か、いやすまん、何羽かは漏らしてるのかもしれないが、だからと言って、俺が何もしていない訳じゃないし、俺が何もしていない、というやつもいないだろう。

 そういうやつは、何も分かってないやつだから、好き放題言わしておけばいい。

 お宅が仕事しているかどうかは、お宅が決めればいい。

 ただ、それで飯を食えてればな。

 そしたらそれで万事快調。

 問題なしってやつだ。

 飯を食えてなければ、趣味だ。

 割り切れよ、相棒。

 おっと。 

 今日の食い扶持だ。

 一羽の若い鳥だ。

 顔を見なくても分かる。

 大胆さじゃない、不用心さで腰が高いし、足取りが速すぎる。

 あれじゃあ、気づいてくれと言ってるのと同じだ。

 壁から木陰、木陰から土手下に移動しているのが丸見えだ。

 撃たれないように気を使っているんだろうが、その前に、気づかれないように移動するってことを忘れてる。

 残念だ。

 若者の仕事の思考そのものだ。

 おっと、俺は何も万人を馬鹿にしてるんじゃない。

 これは、忠告だし、若さは強さと眩さと危うさを内包しているのは、自分より年下を見れば、少しは心当たるものもあるんじゃないかい? 

 中には特別なやつもいるが、それは特別な話に過ぎない。

 Do not trust over 30

 俺もそう思ってたし、その叫びは、概ね正しい。

 30代以下の子供のピクニックで叫ぶ分には大いに正しい。

 そちら側で叫ぶには。

 年齢というのは、基本的には経験から来る高みだ。

 ただ、偉そうに語るのは間違っている。

 歩いた道も、時代も、環境も違うのに、年齢が上だということで意見が正しい、そういうことはまったくない(年功序列なんてくそくらえ)。

 人間は平等なのだ。

 ゆりかごから墓場まで。

 むしろ、新しい時代には、新しい時代を生きている者が相応しいとさえ思う。

 それでも、これは言いたい。

 若い内の苦労は、買ってでもしろ。

 時代が変わり、今の戦争が終わり、生活は豊かになるかもしれない。

 人々の心が落ち着き、明日への不安と貧困がもたらす暴力や不平等、不公平が軽減され、年齢を超え、お互いに敬意を持ち合う、理想(完全なフラット、そんなものがあれば)の世の中が訪れるかも知れない。

 それでも。

 例え生の苦しみが軽減されても、老病死の苦しみは、人に久しく訪れる。

 だからだ。

 やり直しの時間があるうちに、失敗と苦労を。

 そして、避けようのない老病死の苦しみと悲しみを乗り越える強さを。

 残り半分を切ってからじゃあ、失敗する時間そのものが死につながる時間になる。

 それでも失敗する。

 大切なのは、失敗から学ぶことだ。

 成功する方法を?

 いや、違うね。

 取り返しのない失敗とは何かを学び、それを選択しないこと。

 そして、タフに仕事に立ち向かうこと。 

 いちいち感情的になったり、落ち込んでたら、それこそ役立たずだ。

 引き金を絞った。

 彼はもう少し若いうちに苦労するべきだった。

 特に、こんな世の中では。

 まあ、独りであんな風にがむしゃらに逃げるぐらいだから、苦労らしい苦労をして来なかったんだろう。

 そして、彼は、もう二度と苦労することのない世界に飛び立った。

 

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