第2夜 夜飯

 飯を食うというのは重要な事だ。

 雷に打たれたり、橋の上から落ちたり、腹を空かせた猛獣―そう、例えばこの季節は熊―に出会ってしまったりする以上に、確実に死に近づく。

 どの道、飯を食う回数が増えれば増える程、死には近づいているのだが、食えば、食えれば、そう、とりあえずその瞬間は生きているし、まずは、生きるための行為だ。

 他にはない、そう言い切れる。 

 だから夜飯は食う。

 朝も、少しは食べる。

 食欲はないが、腹に何か詰めなければ、日が昇っている間、鳥を警戒し続けるのは、無理だ。

 朝は、そう、鳥がこの塔に取りつかないように、スナイプライフルを握りしめながら、空いている方の手で乾燥したパンや、木の実を口に運ぶ。

 味なんかしやしない。

 期待もしていない。

 それが、口にして腹が膨れる物なら、なんでもいいのだ。

 夜は違う。

 この塔が戦線の外れにあって、ただ、辺鄙な村を守るための物だから、だろう。

 大方そうだ。

 夜は、鳥が来ない。

 たまに、集団から外れたやつが一羽、時には二羽で現れる。

 まあ、たいがい一羽だ。

 はぐれるのは、だいたいそうだろう?

 何も、軍隊に所属する鳥に限らない。

 それでも、時には、必ず現れる。

 なんで分かるのか、って?

 俺もそうだから。

 じゃなくて、なんでこんなところで、毎日外を眺めて鳥を撃って寒さに震えていると?

 まあいい。

 今日の夜は、干し肉と芽キャベツの煮込みだ。

 いい匂いをさせやがる。

 村からの支給は、なかなかの物だ。

 いや、むしろ悪くない。

 村にいるよりずっと。

 おそらくは、罪悪感なんだろう。

 だが、俺はここが好きだ。

 好きになった。

 四十羽を超えた鳥の数を眺めながら、スプーンで煮込みを口に注ぎこんだ。

 そう。

 悪くない。

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