第十二話 ミーツってみた。


「てめぇらよぉ……」


 私を取り囲んでいたプレイヤーをみやり、背の高い金髪のイケメンが呆れたように呟いた。そして胸ポケットから煙草のような物を取り出し、面倒くさそうに口に咥える。


「別に俺はギルド勧誘くらい好きにやればいいと思ってる。けどな、限度ってもんがあんだろう。小さなガキ相手に寄ってたかって脅すような真似……俺はよぉ、そう言うのが一番嫌いなんだよ」

「い、いや、お、俺たちはただ……べ、別に彼女だって嫌がって――」

「ああん?」

「ぃひゃっ」

 

 中性的な声でもドスを効かされたら怖いっ!

 声も出ない男の人たちの代わりに、思わず私が情けない声を出しちゃった。


「ああ……気分悪い、気分が悪い、マジ気分悪くて死んじまいそう。ああ死にそうだ、死んじまいそうだ……あ、お前ら。もしかして俺のことを殺そうとしてる? そうなんだろう?」

「え、そ、そんなわけ――」

「へぇ、やっぱりそうか。じゃあよぉ、俺がお前らに反撃して間違って殺しちまってもよぉ、正当防衛ってことでいいよなぁ? そういうことだよなぁ?」


 ど、どんな因縁のつけ方? い、いや、そう言うことにはならないと思います、よ? 怖いから言えないけど。


「す、すみませんしたっ!」


 そして実際に殺気を向けられ凄い形相で凄まれたプレイヤーたちは、一目散に逃げだしてしまった。私もできることなら逃げ出したいけど、い、一応助けてくれたんだよね?


「――ちっ、セーフティエリア内で殺せるかってんだよ、馬鹿どもが」


 結局、ただ咥えただけだった煙草のような物を胸ポケットにしまい直し、金髪イケメンが近寄ってきてこちらを見下ろした。


「で、でかい……」


 傍に立たれると、VR全盛期の今では珍しいその長身が嫌でも目立つ。

 これ、180は軽く超えているよ。その割には左右に剣を帯びている腰元はスラリとしてるし、モデル体型って奴かな?

 身体の成長に影響を与えると言われるVRの普及によって、現在では180を超える長身は珍しい。このゲームは5cmは身長伸ばせるけど、それにしたって大きすぎない?

 く、くそ、ちんちくりんな私には羨ましい身体だ。


「……おい、触られたりしてねぇーか、お嬢ちゃん」


 ズボンのポケットに手を入れながら尋ねてきた金髪イケメンに、私はぶんぶんと首を横に振って応える。


「だ、大丈夫です」

「ちゃんとガード設定してるか? まぁ、デフォルトなら問題ないか」

「あ、あの、助けてくれたんですか?」


 設定とかの話は良く分からないけれど、一応こちらを気に掛けてくれているみたいだし、悪い人ではなさそうだ。

 ここはお礼を言わなくては。


「ああん?」

「ひっ、ご、ごめんなさい」


 ところが途端に凄まれてしまい、思わず頭を下げてしまった。

 いや、だって怖いよ?

 よく美形の怒った顔は怖いって言うけれど、それ本当なんだね。しかもこの人、常にギスギスした雰囲気纏っているから余計に怖いし。


「うんだよ。そんな恐縮しなくったっていいだろうが」

「だ、だってか、顔怖い……」

「あん?」

「な、な、何でもないですっ! あ、ありがとうございましたっ!」


 これ以上この人といたら、きっと小指詰められる。

 とにかくお礼を言って逃げ出そう。


「待てよ」


 ところが、踵を返そうとしたのに声を掛けられて止められてしまう。ひ、ひぃ……まだ何か用なの?


「……俺は今、連れを待ってんだ。ちょっと付き合え」

「え、な、なして?」

「……今の時間、新規がたくさんうろついてんだよ。その分、ギルドへの勧誘がいっぱいいて、さっきみたく……ああっ! めんどくせぇ。いいからしばらく傍にいろ」

「は、はいっ!」


 なに、この人。すごく強引なんだけど。

 世の中の女子には「強引な人って素敵」っていう人種がいるけど、私は絶対無理だよ。強引と脅迫は紙一重だと思うし、私にはその区別はつかないし。

 たしかにこれだけ美形でスタイルも良ければ、それだけで惹かれちゃう女の子はいるかもしれないけれど、私を一緒にしないでよねっ。

 私はそこらのリア充(リアル充実)女子と違って、根暗で格ゲーばっかりやってるネト充(ネット臭充満)女子なんだからっ! 

 あれ? 関係ないし、何だか悲しくなってきたぞ?


「あの、お連れさんって……」


 とりあえず沈黙を嫌って揉み手で話しかければ、イケメンさんはちらりとこちらを見下ろし、すぐに視線を外す。


「――妹だ。今日からこのゲームを始める」

「そ、そうなんですか。兄妹で仲良くゲーム。い、いいですね」

「…………」

「あ、あのお名前とかって」

「オガミだ」

「あー、お、オガミさん。素敵なお名前ですね、ふひっ。わ、私はアンズっていいます。ふ、ふひっ」

「…………」


 妹さーんっ! 早く来てーっ!

 なに、この拷問? 私にどうしろって言うの? 私が何をしたって言うの?


 コミュ力5しかない私には、こんな寡黙な人の相手なんて無理だよ。けど、黙っているのはこの人の雰囲気的にも怖いし、な、なんとか会話を続けないと……。


「え、えっと、妹さんとはここで待ち合わせしてるんですか?」

「いや、第一広場を出たらここ通るだろう。それを待ってる」

「……へ? なんでこの街の第一広場にログインすることを知ってるんですか?」

「ああん?」

「ひ、ひっ! ご、ごめんなさいっ! よく知りもしないのに変なこと聞いてっ!」

「……そっか。別にログインするのはベルンダの第一広場とは限らないのか……ランダムだったな」

「……え?」


 もしやこの人、当てずっぽう?


「わりぃ、ちょっと落ちるわ。ガワ置いてくから傍離れんなよ」

「え?」


 オガミさんは勝手にそう言い残して、突然固まってしまった。

 しかも鋭い目のまま固まっているから、まるで街行く人を睨み付けているようだ。一体これ、私はどうしたらいいんだろう……。

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