首を傾げた猫

井上 流想

1話完結

おばあさんが黒猫の前を通りかかりました。


「あらあら、そんな悲しそうな顔をしてどうしたの?」

「……」

「黒猫さんも何か悲しい事でもあったの?」

「……」

「この道はね、あの人と毎日散歩した、思い出の道なのよ」

「……」

「もっと早く病気に気づいてあげられてたら良かったのにね」


おばあさんは泣き出してしまいました。

黒猫は首を傾げておばあさんを見つめました。


「黒猫さん、慰めてくれるの?」

「……」

「優しいのね、ありがとう」

「……」

「いつまでも悲しんでばかりいたらいけないわね」


おばあさんは涙を拭い歩いていきました。



陽気なおじさんがやってきました。


「お!黒猫じゃないか!」

「……」

「黒猫ってやつは不吉に思われてるけどよ、

おりゃあ、そんな事ないと思うぜ!」

「……」

「ははは、今日はとびきり良い事があってよ!」

「……」


黒猫は首を傾げておじさんを見つめました。


「仕方ねぇな〜お前にだけ教えてやるよ!

さっき小銭で競艇やってきたらよ、見事に当たっ

てな!これで母ちゃんと旅行にでも行ってくるか

な〜」

「……」

「おい!黒猫!内緒だぞ!」


おじさんはお寿司のお土産をお裾分けしました。



怪しい男がやって来ました。


「なんだよ、驚かせるじゃないか!黒猫か」

「……」

「なんだよ……そんなに責めるなよ」

「……」


黒猫は首を傾げて男を見つめました。


「わかってんだよ、そんな事」

「……」

「お前さんの言う通りだよ」


男は前を向いて歩いていきました。



男の子がわんわんと泣いています。


「ひょっとして……」

「……」

「黒猫さんも、いじめられてるの?」

「……」

「可哀想に」

「……」


黒猫は首を傾げて男の子を見つめました。


「僕、強くなる!強くなって僕が守るよ!」

「……」


男の子は力強く歩いて行きました。



おじいさんが畑仕事を終えて帰ってきました。


「よし、そろそろ帰ろうか。今日もたくさんお話聞けたかね?」

「にゃあ〜」




腰の曲がったおじいさんと生まれつき首の曲がった黒猫はお家へ帰って行きました。




おわり

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首を傾げた猫 井上 流想 @inoue-rousseau

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