第43話 混沌

 さて、本日は文化祭当日。ついに待ち望んでいた日がやってきた。

 別の意味でだけど。


 「よう優一。自信の程はどうだ?」


 舞台裏でスタンバイしていた所に晃德がやってきた。


 「お前はいつでもオッケーって感じだな。」


 「あぁ。そんなとこだ。」


 大賢者の衣装もバッチリ決まっている。

 ちなみに前にあった問題のシーンだがもちろん没となった。当たり前だよなぁ。


 「そろそろ始まるから行くな。お前の演技力期待してるぞ。」


 「任せろ...とは言えないがそこそこのできにしておいてやる。それじゃ。」


 晃德が準備をしに戻る。

 俺もそろそろ準備しないとな。そう思い、お守り代わりに有希乃の方を横目でちらっと見てみる。


 「だ、大丈夫...できる、できる...。」


 ――めちゃくちゃ緊張していた。これじゃ俺まで緊張してしまってお守りとか言う話じゃなくなった。

 すると有希乃が俺を見つけたのか顔を引きつらせながら震えた親指をあげる。どうしよう全然頼もしくない...。


 「それではただいまより――。」


 アナウンスが劇の始まりを告げる。

 有希乃の演じるおばあさん役はド頭から出番だがいざ舞台に姿を現すと完璧に演じきっていた。さすがは有希乃だ。


 「これは危ない。早くおじいさんにこの桃と思しきものをレントゲン検査してもらわないと...。」


 この時代にレントゲン検査なんてあるわけないだろ!いい加減にしろ!と思う人もいるだろうがこの物語に常識は通用しない。諦めるこったな。

 そうしておじいさんの調査によりその桃と思しきものがX線を通さない特殊な素材でできていることが分かり仕方なく桃を切ることに。

 最初からそうしろよと思うかもしれないがこの物語に常識は以下略。

 その後も常識外れなストーリーが展開されていくが有希乃の出番がいったん終わったところで帰ってきた。


 「ううぇ~ん。ユウ君~。」


 すると俺を見つけた途端涙目になってこちらに抱きついてきた。


 「うわやわらか...じゃなくてちょっと静かに!もう始まってるんだから。」


 「ちょっとお二人さーん?お熱いのは良いんだけど劇に集中してねー?」


 近くにいた同じクラスの女子生徒にニヤニヤされながらたしなめられる。


 「ほら、今は集中な?」


 「後でいっぱいかまってもらうから~!」


 そう言って渋々離れるが俺的にはもうちょっとあのままでも良かった。

 ――そうして物語は佳境に入る。

 大賢者(晃德)からもらった英雄の遺産、鶴(俺)からもらった神族の衣を手に桃太郎一行は鬼たちと対峙する。

 まぁそれも桃太郎が強いのなんのって。

 出会って3秒で切りつけるし。鬼なんか台詞言い始めたとこなのに。

 おともの出番?そんなものはねぇよ。

 そのまま桃太郎の圧勝でめでたしめでたし、無事に幕を閉じたのだが何だろう...このこれでいいのか感。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る