第33話 手取り足取り

 さて、あの厄災から無事に逃れて愛しの彼女の所へ。

 インターホンを押して家の前で待つ。


 「いらっしゃい。どうぞ上がって。」


 「お邪魔します。」


 前も来たことがあるのでご家族にお邪魔しますと軽く挨拶をして有希乃の部屋へ向かう。


 「う~ん何度見てもいい部屋だなぁ。」


 「あんまり変なこと言わない。さっさと始めよ?」


 「はーい。」


 有希乃が少し恥ずかしそうにたしなめる。

 そんな彼女を可愛いと思いながら大人しくした。

 ところで今日はどんな用事で来たのかというと部屋の模様替えの手伝いだ。

 模様替えと言っても新しいのを買うわけでもなく今ある物の位置を変えるだけだ。

 

 「じゃあまずこのクローゼットからお願いしようかな。」


 「おし!俺に任せとけ!」


 「いや、意気込んでるところ悪いんだけどどう見ても一人じゃ無理だよね...。」


 「...」


 そうですよね。協力大事。


 「持ち上げるぞー。」


 「いいよー。せーの!」


 持ち上げたクローゼットは以外と軽く、二人で持つということの凄さを改めて実感する。

 とりあえず外に持って行くため廊下に向かって運び出す。


 「この辺でいいか?」


 「うん。じゃあいったん置こう。」


 有希乃の家は廊下も広いのでクローゼット一つ置いておくにも楽で助かる。


 「じゃあ次は...」


 といった具合に有希乃の部屋の模様替えは着々と進んでいった。


 「...うん。これでいいかな。ありがとう!思ったより早く終わって良かった!」


 「そうか?そう思ってもらえるなら光栄だな。」


 「そうだ!疲れたでしょ?何かお菓子とお茶持ってくるね!」


 申し訳ないとも思ったが折角彼女の家に来ているのだ。もう少しいたって罰は当たらんだろう。


 「それじゃお言葉に甘えようかな。」


 「それじゃここで待っていて!」


 そう言って有希乃がお菓子とお茶を取りに行く。

 手の空いた俺は模様替えされた部屋を見渡す。

 特に変わった所といえばベッドの位置が窓から遠くなったとこか...。


 「お待たせ~どうぞ。」


 「ありがとうね優一君。」


 しばらくして有希乃と有希乃母が。かごに入ったお菓子と香ばしい紅茶の香りが食欲をそそる。


 「それじゃ私はこの辺で...。ゆっくりしていってね~。」


 「わざわざありがとうございます。」


 仕事を終えた有希乃母が退散していく。本当に愉快な人だ。


 「そういえばお昼何かあったの?」


 「あ、あぁ...少し厄災退治に...。」


 突然の質問に少したじろいだが何とか適当にごまかしておく。

 

 「なんだかよく分からないけど大変だったんだね。」


 「そりゃ大変だったよ。」


 しばらくいただいたお菓子を頬張る。うん。おいしい。

 

 「ごめんねユウ君。どこか行くって約束だったのにこんなことさせて。」


 「突然どうした?大丈夫だ。全然問題ない。一緒にいられるだけで俺は満足さ。」


 そんなこと気にしていたのか。言葉にも出したとおり俺は有希乃と一緒にいるだけで満たされていく。それは紛れもない事実だ。


 「ありがとう。ねぇ。もし良かったらなんだけど...。」


 「おん?」


 有希乃が恥ずかしそうに何か話を切り出そうとしている。良かったら?このお菓子全部くれるとかか?それはさすがに悪いから返すとしようか。

 そう思っていたが俺の予想は全然近くなかった。


 「埋め合わせとしていつか二人で旅行に行かない?泊まりで。」


 「り、旅行?」


 「うん。具体的な場所は決まってないんだけど二人で行けたらなぁって思ってたの。」


 「うん...。俺も行きたいかな。旅行。」


 「うちのお母さんには話してるからユウ君さえ良ければ考えといてくれない?」


 「分かった。聞いてみるよ。」


 最近イベント多過ぎじゃないっすかね俺。幸せすぎて刺されそう。

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