第31話 ダブルブッキング

 8月某日、俺は暇を持て余していたので俺の好きなアーティストであるアイダボタンの曲を聞いて夏休みを謳歌していた。

 宿題は...まぁ夏休みが終わるまでにはできあがるペースでできているでしょ。

 そう思いながら緩やかに時間を過ごしていると母からコンコンとノックがあった。

 「なにー?」


 「ちょっと優一、女の子から電話来てるわよ。」


 うん?有希乃であれば用があるときは俺の携帯電話にかけてくるはず...。

 誰かは想像も付かないが間違い電話でもなさそうなので電話を替わる。


 「はい。お電話替わりました。」


 「どーもー!先輩の可愛い後輩の美琴でーす!」


 ガチャッ。


 「さて、続きでも聴きに行くか。」


 プルルルルルルルルル...。

 受話器が騒々しく鳴る。

 はぁ...仕方ないから出てやるか...。


 「...もしもし?」


 「もー!ひどいじゃないですかー!いきなり切るなんて信じられません!」


 「まぁあれはつい反射で...。」


 「言い訳はいいですー!」


 「で、用はなんだよ。」


 「あ、そうでした。先輩、賢いですよね?」


 「いや。」


 「あーじゃあ言い方変えます!先輩私より賢いですよね?」


 「そりゃ誰に聞いてもほとんどの人がイエスと言うと思うぞ。」


 「今は話を続けるためにあえて無視します....。で、そこでお願いがあるのですが...。」


 あぁ...イヤな予感がする。ここは適当な芝居でごまかそう...。


 「お掛けになった電話番号は...。」


 「そのアナウンスは出てからじゃ遅いと思うんですが。」


 くっ!さすがに厳しいか...!


 「先輩には私の勉強を見てもらいたいのです!」


 「はぁ...。いいけど何で俺が?」


 「そりゃ先輩の前ではサボれないかなーと思いまして。」


 「誰の前でもサボると思うけどなー...。」


 「まぁまぁ。それで日にちなんですけどー、どうせ暇でしょうし明日とかでいいですか?」


 「お前人のことなんだと思ってんだよ。まぁ暇だけど。」


 「やった!じゃあ明日の昼頃でお願いしますね!」


 嬉しそうに言って美琴は電話を切った。

 ...ん?待てよ?確か明日って...。

 携帯で今日の日付を確認する。そうだった...。

 ――有希乃との約束の日じゃん。

 や、やべぇ...。どうしよう。あまりの面倒くささに適当に相づち打ってたら了承しちまったよ...。

 

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