第29話 ぼろぼろの凱旋

 「た、ただいま...。」


 「うげっ!どうしたのお兄ちゃん。」


 突然玄関に現れたアンデッドにすみれが驚愕する。

 お願いだから兄と分かっているのに近くからほうきを構えないでくれ。

 どうしてこんな状態で帰ってきたのか、話せば長くなるが聞いてくれ。


 ――あの後テニスブースを抜けて先ほどの休憩スペースへ連れて行かれた。


 「あのー...。」


 「...。」


 あ、怒らせたかこれ。呼んでもジトッとした目で見返してくるだけ。


 「い、痛くないか?」


 「大丈夫だし...。」


 「本当か?」


 「大丈夫だって。なんなら触ってみれば良いじゃない。」


 「いや、ここではちょっと...。」


 「ここじゃなかったら良いんだ...。」


 あ、やべ。つい本音が出てしまいました。

 このままだと有希乃のご機嫌は下り坂一方だ。なんとかして言い訳を考えねば...!


 「い、いや、そういう意味では...。」


 「じゃあどういう意味なの?」


 追及怖ぇぇぇぇぇぇ!しかも何でちょっと笑顔なんだよ!逆に狂気はらんでそうで怖いわ!

 有希乃は怒らせたらダメなタイプだ。晃德と一緒。


 「別に私は良いのに...。」


 「え?何か言ったか?」


 しまった。有希乃に気圧けおされて聞いていなかった。

 これが原因でまた着火するのでは...。それはまずい。


 「...何でもない。」


 頬を朱色に染めながら有希乃が返す。

 やべぇよやべぇよもう打つ手無しか!?

 と思った瞬間思わぬ所から救いの手が。


 「スケート。」


 「え?」

 

 「スケートが上達したら許してあげる。」


 「そ、そんなことで良いのか?」


 「私無しじゃろくに立てない人がそんなことねぇ...。」


 「返す言葉もございません...。」


 まぁ有希乃も負けっぱなしではいられないではいられないんだろうなぁ。

 と思いながらも体を心配するのであった。


 ――んで、その後はお察しの通り満身創痍で帰ってきたところをすみれに目撃されてしまうわけだが...。


 「いや、ちょっとな。俺自身と戦ってきたのさ。」


 「何言ってんのお兄ちゃん...。」


 ひどい言われようである。


 「そんなことよりもう晩ご飯できてるよ。早くて洗ってね。」


 「そんなことっておい...。まぁいいや。了解、サンキューな。」


 まぁ、帰りには有希乃もいつもの調子に戻っていたからヨシ!ってことで。


 

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