第28話 本当に偶然なんです

 しばらく休憩できたおかげで調子が戻ってきた。痛みもなくなっているようだ。


 「よし!有希乃。いけるぞ!」


 「本当かな...?まぁユウ君が大丈夫って言うなら良いけれど。」


 「大丈夫だ!早速行こう!」


 そう言ってテニスのブースへ移動。

 休憩していて遊べなかった分取り返すぞー!


 「お、ラッキー。空いてたな。」


 わくわく気分で到着。

 並んでいる人もなく、さっきの人もついさっき出たようなのですんなり入ることができた。

 共用のラケットとボールを持つ。


 「よーし、早速行くぞー。」


 「いつでも良いよー!」


 俺のサーブから始まる。

 実は俺の中学の頃の部活動はテニス部。と言っても下手な部類に入っていたのだがそれでも一応人並みにはできる。


 「ほいっ!」


 有希乃も負けじと返してくる。

 ...あれ?上手くないっすか?

 さすがに未経験者に負ければ本当に面目がなくなるので必死に返す。


 「これならどうだっ!」


 有希乃を左右に動かすような返し。ちょっと大人げないかなとも思うがこれも俺の面目のため。許せ有希乃。


 「とどめ!」


 「うわっ!」


 俺の狙い通り有希乃は球に追いつけず俺の先制。


 「上手だねユウ君!さっきのスケートの人と別人みたい!」


 「ふっふっふ。悪いが負けられないのだ。本気で行かせてもらうぜ!」


 したり顔で言う。

 ――嘘です。そんな余裕ない。何であんな上手なの?

 あ、あと結構視界に入るあの揺れる巨大な果実も悪いと思います。気になって集中できんです。けしからん。

 気付けばお互いマッチポイント。デュース無しで行くと次に点を入れた方が勝ちだ。本当にけしからん。

 全く何でそんなおもりつけてんのに運動神経が良いんだろうか。お兄さんうらやましい。


 「いくぞ!」


 俺のサーブ。当然のように有希乃が返してくる。ここからどうするかだ。

 しばらく膠着状態が続く。このままでは埒があかない。

 ――ここで披露するか。

 初心者相手に使わないようにしていたがもう有希乃初心者ってレベルじゃないから良いよな!


 「スマーッシュ!」


 披露するほどでもないものだが初心者相手にはこれがまぁ刺さる刺さる。

 ...ところがだ。打つ瞬間、男には避けられない運命が待っていたのだよ。


 「っ...!」


 有希乃が突然方向転換する。目の前で何がとは言わないが揺れる揺れる。

 その桃源郷のような光景に一瞬心を奪われスマッシュの威力が大幅に減衰してしまった。

 カス当たりの球が有希乃の方へ飛んでいく。有希乃ももっと球威が強い物を予想していただろう。予想に反した球に急いで前に出る。その時、


 ボッヨ~ン


 ...ありのままを言おう。

 有希乃の胸にボールが当たった。痛くないかな?

 まぁ得点は得点。俺の勝ちなんだが...。


 「...ユウ君のばかぁ!」


 まぁそりゃそうなるわな。

 その後は有希乃のご機嫌取りで大変な労力を使いました。

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