あの日あの時あの場所で

アケローン川出身大猫

第1話 憂鬱な1日

ピピピ、ピピピ

憂鬱な1日が始まる音が聞こえる。

まだ薄暗い空がカーテンの隙間から見えた。

鳴り響く目覚まし時計を強く叩く。

時計は午前4時30分を指していた。

ベットの横に置いてあったスマホは充電ケーブルがいつの間にか抜けていたらしくあまり充電できていなかった。

私はまた憂鬱な気持ちになった。

鏡で見飽きた顔を見ながら歯磨きを済ませる。

そして踏切を挟んで向こうの道にある工房へと向かう。

これが私の朝。

工房についた私は使い古されたエプロンを身につけパンを焼き棚に陳列する。

陳列が終わった頃には7時を過ぎていた。

私は父から受け継いだパン屋さんを経営している。

最近少し店を改築し店内でも食べられるようにイートインスペースを設けた。


ポッポーポッポー

開店時間を知らせる鳩時計が鳴る。

私はその音を聞きガラス張りのドアに立てかけてある看板をひっくり返し「オープン」と言う文字を道の方に見えるように立てかけ直した。

開店と同時にお得意さん達が来店してきた。

いつも焦った様子で来てくれるサラリーマン。

いつも寝癖がついたまま来てくれる学生さん。

いつも疲れ切った顔をしているがお会計の時は笑顔を見せてくれるバンドマン。

私は…いや私の店はこの街の人達に愛されている。

少なくとも私はそう思っている。

でも私はこの仕事が嫌いだ。

仕事だけじゃない外に出ることが嫌いだ。

いろいろ試したつもりだ。

眼鏡をしてみたり。出来るだけ下を見ていたり。

でもこの力から目を背けることはできなかった。

そう私はあの日から不思議な力をもっている。

私の不思議な力。

簡単に言ってしまえば目には見えない。誰も知り得るはずのない情報が見るだけでわかってしまう。

例えば「寿命」「持病」「恋愛経験に失恋経験の数」「犯罪を犯した数」

他にもたくさんの情報がその人を見ただけでわかる。

他人から見たら便利な能力かもしれない。

だがそうでもない。

私は基本余程のことがなければ病院には行かない。

その理由は簡単。私が見える情報のうちの1つ「寿命」のせいだ。

病院ですれ違う人すれ違うみながもう長くない。

そんな私が接客業を続けているのには訳がある。

このパン屋は父から受け継いだ店だ。

それに……あの人を待たなくてはいけない。

あの人…私にとっては凄く特別な存在。

あの人は寿命が0秒0日0秒と記載されているはず。

でも生きている。

おかしいのは「寿命」の表記だけではない。

「持病」や「犯罪経験」など全ての情報がモヤのようなものがかかっていてよく見えない。

きっとこの人を調べれば何か力についてわかるかもしれない。私はずっとこの人のことを追っかけている。約一年近く。

だが追っかけていると言ってもいつだってお得意さんとして、ただの客として振る舞うだけで話しかける訳でもなく。家や職場までついて行く訳でもなく。

そんなただの客と定員としての関係しかない。

私だって出来ることならこの人の全てを知りたい。

名前や住所それに過去を。

でも私は恐れている。

この力のことを他人に教えることを。

あれは何年前だろうか。

力を持っていることに気がついた私はこの力を少しでも人の役に立てようと考えた。

私は当時住んでいたお隣さんのおばさんが重い病気の初期段階であることを力で知った。

その時の私は人助けの為と思いそのことをおばさんに伝えた。

おばさんの持病のことそして寿命のこと。

それがまずかった。

本来おばさんは後「11年」生きられた

だがこの力のことを伝えた2日後におばさんは亡くなった。

そうこの力を使いその人に寿命のこと、持病のこと、そして力のことを伝えてしまうことでその人に用意された結末が変わってしまうそれにより大幅に寿命が短くなってしまう。

だから話せない。

そんな私だが最近パンを売ること以外にもう1つ仕事をしている。

仕事というよりかは私のお節介だが…

私が見える情報には「感情」と言うものもある。

楽しい、悲しいみたいな簡単な感情しか見れないがその情報を使って悲しい、悔しいなどの負の感情を持った客に積極的に話しかけ相談に乗る。

そして問題解決!あわよくばうちのパン屋の常連さんにしようと言う寸法だ。



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