第7話 ネコチャンと手抜き

「下僕よ。私はいいことを思い付きましたよ」


 鼻をプスプス言わせながら眠っていたネコチャンが、突然顔を上げてそう言った。


「うわっ、何のことですか」


「ウェブ小説の書き方のことです。これをもっとお手軽に書けるようになる方法を考えたのです」


 自信満々に言うネコチャンの金色の瞳は、知性と確信に満ちているように見えた。私は思わず生唾を飲み込んだ。


「して、それはどうすれば……?」


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ネコチャン「こうするのです」

下僕   「は、この脚本みたいなやつですか?」

ネコチャン「楽でしょうが。地の文がなくて会話がサクサク進みます」

下僕   「楽は楽かもしれませんが……いや、駄目でしょうコレ。なんか」

ネコチャン「何がいけませんか?」

下僕   「いやいや、こんなのは小説ではありません」

ネコチャン「あなたは小説を語れるような立場なのですか? それに、面倒がって何も書かないよりずっとマシです」


ネコチャン、移動して下僕のアキレス腱を噛む。


下僕   「いたたた、やっぱり脚本じゃないですか。今ト書きみたいなものが見えました」

ネコチャン「楽だと思いますけどねぇ。キャラクターだって、名前さえ書けば簡単に切り替えられます」

オジサン 「とても簡単です」

ネコチャン「ね?」

下僕   「誰ですかこの人。ネコチャン、もうやめましょう! こんなことは」


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 地の文が戻ってきた。私はほっとして一息ついた。


「やっぱりこっちの方が、小説という感じがしますよ」


「いい考えだと思ったのですが……」


 ネコチャンは不満そうに、しっぽをパタンパタンと床に打ち付けた。


「いや、私はよかったと思いますよ。ネコチャンがお考えになることは、いつも最高です」


 オジサンが深くうなずきながら言った。


「あんた何なんですか。いつの間にどこから入って来たんですか」


 私はオジサンを玄関の方に押していった。


「私はネコチャンに呼ばれたのです! 放してください! ネコチャンにちゅ~るを持って来たのです!」


 オジサンはドラッグストアのビニール袋を振り回し、ネコチャンの眼が妖しく光った。私はオジサンを押し出す手に満身の力を込めた。


「ネコチャンはダイエット中です! 肥満は万病の元です! ネコチャンのためを思うなら、それを持って帰りなさい! ていうかストレートにもう帰れ! 誰だお前は!」


 罵られ続けたオジサンは、寂しそうに玄関から出ていった。


「下僕よ、なんということを……ちゅ~るを帰してしまうとは……」


「ネコチャンにはダイエット用のご飯があります」


「おお、私のちゅ~るが……」


 ネコチャンは物凄く可愛らしい顔で私を見上げたが、私は心を鬼にして耐えたのだった。

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