第8話 魔王の戦闘 その先触れ

 魔王の火炎。その黒く、暗い、底無しのおぞましく鮮やかな輝き。魔王の指より生じた黒炎は、輪を描きながらその熱量と大きさを増す。

 女の目に写った炎。その熱により世界が揺らぐ。触れてすらいない周りの木々が燃え始める。そうして火炎と熱は更に加速する。魔王の生じた小さな火の環。環は少しずつ肥大化し、世界を魔王の景色に染め上げた。

 逃げ場などありえない。最早女の目はその怯えと恐怖心を隠せなくなっていた。

 魔王と女、その圧倒的な差。それに気圧され女の視界が遠のく。自身も、黒炎も、魔王も、そして木々を含めた風景すらも俯瞰される。その際、ふと気づく。

 魔王の黒炎。その暗さに勝るとも劣らない暗さ。魔王の背後に炎とは全く異質な『黒』が広がっていた。

 黒い炎からは熱と暗き輝きを感じていた。しかし『黒』からは何も感じない。黒炎が高純度かつ溢れ出るエネルギーを感じさせるのに対し、『黒』からは無限に続く空虚以外何も感じない。

「ねぇ……その、後ろ……」

 後ろ?と魔王が振り向くや否や、『黒』から現れた獣の顎が魔王へと噛み付いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る