第6話 魔王の戦闘

 黒い炎を隔て魔王と女は対峙する。女は拳を防がれたと理解するより先に二撃目を放つ。

刹那の速度を誇るその拳は、肉に当てれば体躯を弾くどころか穿つほどであろう。

 しかし、当たらない。当てられない。拳は火炎に包まれそれ以上をもたらさない。

 黒い炎の感覚は『強固』だとか、『反発』とは異なる。感覚的には水中に近いだろう。平時とは比にならない圧倒的な抵抗が拳をせき止める感覚だ。だがその力はそれこそ水のそれと比にならない。

圧倒的な抵抗が拳に前進を許さないのだ。


 二撃でそれを理解し、女は一度飛び退く。

「…なめてる?」

「なめてる。とは?」

「反撃する気ないでしょ。むかつくんだけど」

「いや、あぁ。それは悪かった。てっきり威嚇なのかと思った」

 魔王のその少し申し訳なさそうな声音。それが女の琴線に触れた。

「…へー。そうくるんだ……ふーん」

 女はゆっくりと拳を構え、目を一度瞑り、息を吐く。次に開いた目に映るのは殺意ではない。無機質で虚ろな目。

「じゃあ…」

 女は右の拳を引く。更にその拳添える様に左の拳を合わせる。

「これは?」

 女は右の拳をそのままに左手で空を切った。まるで右の拳と大地との間割くように振るった左手。

 振り切るよりも早く、辺りに高音の振動が響き渡った。

 音の波が空を震わし、木々を揺らす。その振動が周囲の木々の根本を崩壊させる。大木は自重を支えられなくなり、激しい音と共に倒れだす。

「ほぅ」

 全ての木々が巨大な音と共に魔王へと振り下ろされた。

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