第12話 つり上げ屋
Twitter、Facebook、インスタ、数十年前には考えられなかったSNS文化の広がりにより、近代の金融犯罪史もあらたなページに突入している。
「最もブームに敏感なのは犯罪者だ」と言われるように、こういった最新のツールに真っ先に適応した手口をつかうのは、裏組織なのかもしれない。
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「黒も黒、まっくろだね。とりあえず、現時点での報告書。」
自称・情報屋のYだ。
調査業務はバーターで丸投げ依頼した。
「細かいところは色々あるけど・・・令和時代の仕手ってやつかね。」
【仕手(して)】とは。
人為的に株価をつり上げて売り抜ける、投資運用業界に巣くう裏家業である。
ちなみにこれ、相場操縦と呼ばれるれっきとした違法行為である。
「手口としてはこう。流動性(売買数)が少ない小口株を、インフルエンサーを通してSNSとかでおすすめの銘柄ですよ!とPRする。これ自体は、不特定多数への配信だし、報酬等も受け取っていないなら金融商品取引法にも違反しない。」
「うまいこと考えたね。で、詳しい話を知りたい方はDMで!セミナーありますよ!みたいに誘導して、買わせて、株価をつり上げる。十分な水準になったら自分らが持ってるのを利益確定して、撤退するというわけだ。」
「代表者の経歴とか漁ってみたけど、不自然なぐらい何も出ない。これはたぶん、裏にプランナーがいる事件とみた。」
プランナーとは。
文字通り、「計画を立てる人間」、つまり専門知識を持った人間がこういった手口を作り出し、その計画を販売するのである。事件の大本ではあるが、実行犯になりにくいので非常に逮捕しにくい。
「まぁその辺は、ウチは警察じゃないからいいや。調査情報は好きに使ってくれてかまわんし、調査代も振込んどくよ」
「まいどありー。まぁ、週刊誌とかに売り込むかどうかは微妙なラインだな」
「その辺も任せるけど、売り込む前に一声かけてくれ」
さて。
情報は手に入った。違法行為云々は警察と裁判所の仕事だから構わないのだが、大事なのはここからどうやって「自社利益と顧客利益を生むか」だ。
君子危うきに近寄らず、とはいうが、投資というのはリスク=リターンだ。危うきに近寄らずなら一生儲けられない。
かといって、許容できないレベルのリスクに身を浸し、その結果焼かれるのもいただけない。そのあたりの塩梅が大切である。
こういった問題を解決するときのシンプルな方法は一つ。
「火中の栗は、ほかの人に拾わせる」のである。
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