第8話 ケース01「株式投資のスズキさん」

「どうして、こんなことになったんだ!?」


スズキさんである。

何となく皆様がお察しの通り、相談から2年、「まだいける、もうちょっと行ける」の精神で株を持ち続けた結果、2020年2月度に発生した大暴落で、資産は30%目減りするという素敵な状況に陥っている。


「だから、いったでしょう。頭としっぽはくれてやれの精神で、欲張らずにちょっとづつでいいから、利益確定したほうがいいですよ、って」


「いや、聞いてない!」


めんどくせぇ。

まあもう、こういうケースは死ぬほど経験しているので、メールで送りつけたログを印刷したものを、魔除け代わりに叩き付ける。餓鬼には米を投げつけるべきだが、まだ一応、顧客さんなのでそのあたりの良識は残ってる。


「・・・・・・で。どうするんです?」


「・・・どうしたらいいかな。」


「ぶっちゃけ、もう手遅れなんで値段が戻すまで待つか、損失確定して忘れるかしたほうがいいですね」



今回のウィルスや、8年ほど前に発生した金融危機ような「恐慌相場」では、問題が「起きた瞬間」に損失を受け入れて静観するか、それとも値を戻すまで待つかの二択だ。


ただし、バブル崩壊から株価上昇まで10年かかった例にもある通り、それなりの時間を費やすことになる。


「どうにも、ならないかな・・・」


「まぁ、家が全焼した後に火災保険に入りたいって言ってるようなもんですからね」

そんな虫のいい話、もちろんだがあるわけない。


「まー・・・これからどうするかっていう運用プランをつくるなら、また提案しますし。投資はもうこりごりだ!っていうならそれはそれで、ありかと。どうしたいんですか?」


「・・・ちょっと考える」

えらい落ち込み用である。まるで634mあるスカイツリーから、紐なしバンジーしたかの如くの落ち込みようである。気分的にも、資産的にも。



ちなみにその後、話もそこそこに。スズキさんは帰って行った。

いまから投資学習レクチャーを受けなおして、次のチャンスに備えるそうだ。


だが彼はまだ、運がいいほうだ。だって、生きているんだもの。

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