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わたしも朝陽も土日休みだから、予定があえば一緒に行動する。朝陽とわたしは、おもしろいと思うものと、つまらないと思うものが似ている。朝陽はわたしが嫌だと思うことをよくわかってくれるから一緒にいて物凄く楽だ。
新宿のマルイに行くと、セクシャルマイノリティのひとびとを撮影したポートレート展が行われていた。わたしも朝陽もそれに気が付いたはずなのに、それについて語らなかった。
朝陽のジャケットを一緒に選び、その後、ピカデリーに向かって歩く途中、朝陽の好きそうな長身の男とすれ違った。朝陽を盗み見ると熱を帯びた目で彼を見ていた。朝陽の男好きには感心する。しかし、こんな彼の情緒を左右するミシマという男はどれだけ素晴らしい人物なのだろう。
ガストで夕飯を食べて、スタバで新作のフラペチーノを飲んで帰る。やっていることは高校時代から何も変わらない。
家に帰るとポストに不在連絡票が入っていた。「井村晃子様より」。朝陽の母からだった。
配達員に電話をし、二十時過ぎに宅配便が来た。中身はだしと缶詰のセットだった。すぐに家電から電話をかけた。
「夜分すみません。いとです。素敵なものをどうもありがとうございます」
「わざわざ連絡ありがとうね。最近どう?」
「おかげさまで楽しく過ごしています。いま、朝陽さんに代わります」
朝陽は眉間に皺を寄せ、目を細めながら電話に出た。しかし声色は優しい。
「気遣わなくていいのに。うん。わざわざありがとうね」
朝陽が彼の母親と話しているとき、頭の中で黒板を爪でひっかくような音が響く。
「うん、うん、大丈夫だって。うん。そのうちね。はいはい。じゃあまた」
彼はゆっくりと受話器を置いた。
「おかあさん、孫は? とか言ってた?」
「言ってねえよ」
言ってたとしても朝陽はそう言うだろう。
朝陽の生殖器は、快楽の道具以上の意味を持たず、わたしの生殖器は何の意味もないものだ。
「ねぇ朝陽」
彼がわたしを見た。その続きのことばは言わず「これ、いつ食べようか」なんて呑気なことを言った。
彼の母がものを贈ってくるときはだいたい、お礼の電話のついでに朝陽に何か言いたいことがあるからだと最近思う。
朝陽がシャワーに入っている間、わたしは自室で彼の実家へのお返しをインターネットで探した。
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