『開発部隊』

 『魔術犯罪抑止庁』職員の武器や防具を揃え、乗機や補助機器の調整をするのは『装備(ガラキ)部隊』である――が、新兵器の開発はまた別の部隊が担当している。

 否、部隊と言う呼称は相応しくない。何故ならその部隊を構成する人間はたった一人だからだ。「厄災」シア=ジア。紫髪に白い肌、金色の目をしたジェニアト成人女性。人種として小柄なジェニアトの中でも、特に幼く小さな体で、日々様々な発明品を作っている。



 見た目に騙されることなかれ。彼女の異名が「厄災」であるのには、確かな理由があるのだから。



 ぼふん、なんて音は可愛らしいものの、もたらされた被害は甚大だ。『抑止庁』の中でも最も壊れにくいと公表されている、野外訓練場の外郭が破損したのだ。見学、もとい野次を飛ばしに来ていた他の部隊員が目を丸く、口を開けてその爆破痕を眺めている中、主犯は精一杯可愛らしく舌を出して片目を閉じる。


「……てへ?」

「おい待てそれで済むと思ってんのかジア」

「あーあついにやったよいつかやると思ってました」

「どうするやべーよ今から入れる保険ある?」


 渦巻く鉱石を囲う歯車を背負う、『開発(ジア)部隊』長シア=ジア。彼女は今日も発明品の試運転と称して未承認の新兵器をぶちかました。「火蜥蜴の吐息」と名付けたそれは、僅かな魔力で凄まじい威力の火属性魔術を放つ懐中階差機関だ。

 凄まじい威力の証左はたった今吹き飛ばした外郭であり、可愛く誤魔化そうとしたシアの周りでは恐怖に震える人間の群れがいる。確かに、シアの携える「火蜥蜴の吐息」も怖いが、何より怖いのは――


「こらぁあぁっ!! まーたお前かシアぁあっ!!」

「ひえっ!?」

「終わったわジアのせいで俺らの人生も終わったわ」

「あーもーおしまいだぁー」

「保険屋と弁護士呼んでくれ頼む」

「お前らも見てたなら止めんかぁあっ!!」


 訓練場の隅から隅まで響き渡る大音声。銅鑼のような声の主は、『装備部隊』の隊長であるホムラ=ガラキ――巌の如き肉体と精神を誇る、気に入らないことがあれば長官すら叱り飛ばすジェニアト魂際まれりの男性だ。

 ふん! と気合い一発、頭一つ分小さいシアの襟首を掴むや否や、その耳元で更に説教をかますホムラ。それを見ながらそろりそろりと逃げ出そうとした他部隊の野次馬たちの肩に、そっと添えられる武骨な手。


「この状況で逃げられると思うおめでたい頭が三つ、どうせ役立たずなら最期に一つ俺の役に立てる仕事を斡旋してやれるんだが」

「人としての尊厳も終わらせられるみたい」

「おしまいの先ってあるんだね」

「おまわりさん!! おまわりさん!!」

「俺たちがおまわりさんなんだよなぁ? 今日のガラキ隊長の護衛が俺だった不運を嘆け」


 黒い制服の背には、割れた窓と欠けた林檎を囲う歯車。『遊撃(ゼーレ)部隊』長、死んだように濁った黒目とぱさついた黒髪のニギ=ゼーレヴァンデルング。野次馬たちは自分たちの運命を――施設破損の懲罰を名目にした、死ぬしかない戦闘訓練に思いを馳せて死んだような目になった。

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