『強襲部隊』

 『魔術犯罪抑止庁』では、犯罪者の更生手段として、主に拘禁か刑務かを選ばせる。無論、刑務に服すことが適当ではない者の場合は問答無用で拘禁になるが――それこそ、使えるものは何でも使わなければ日々の業務が片付かないと言う切実な理由もある。

 故に、『抑止庁』職員は三種類に大別される。年二回の入庁試験に合格して配属された通称「就職組」、刑務として適性に応じた部隊に配属された「懲役組」、その他様々な事情から『抑止庁』に所属せざるを得なかった「保護組」だ。

 それぞれの比率としては、就職組が六割、懲役組が二割、保護組が二割程度と発表されている。とは言え、これらが問題にされることはないし、職員同士でも相手が何組か問うのは重大な規律違反だとされている。



 ――だがしかし、自分で公言している場合は別である。



 強盗や殺人などの凶悪犯罪、或いは犯罪組織による大規模事件の制圧を主な任務としているのが『強襲(ツヴァイ)部隊』である。隊長は緑髪金目のノスタリア成人男性、「踊子」の異名を持つウル=フェアツヴァイフルング。副隊長は紫髪赤目のノスタリア成人女性、「化猫」ミネット=シェノン。

 歌唱魔術士のウルと輪廻魔術士のミネットは、けれども実際に組んで任務に当たることは少ない。遠距離戦闘や他者強化を得意とする歌唱士と、近距離戦闘と自己強化を得意とする輪廻士ならば、共にある方が効率的であるにも関わらず。

 それには、ウルとミネットの関係性や使える魔術、修めた技能などが複雑に絡み合った理由があるのだが――それを犯罪者相手に説明してやる必要などないため、謎は謎のままになっている。

 そうして今日もまた、ウルはミネットとは別の人間と組んで仕事をしている。白昼堂々発生した大規模殺人事件。否、事件を引き起こした犯罪組織『大天災(ジーニアス)』の研究者たちに言わせれば「一般都市民と野性動物を素材にして作った実験体のお披露目会」。素材にされた人間のみならず、解き放たれた実験体の手によって何十人もの人間が殺され、傷つけられている。

 今回の任務の肝は、実験体の破壊と実験体を解き放った研究者たちの捕縛である。手が回れば逃げ惑う人間の誘導や怪我を負った人間の治療も任務の内だが、それらは後続の『医療(トキシック)部隊』に任せることも出来る。


「つー訳でェ、あっちはバラバラにしてもいいけどあいつらは殺しちゃダメだかんな? オレちゃんと言ったかんな?」

「はーい、あいつらは殺してよくてあっちは無視していいってー、りょうかーい」

「びっくりするくらい何も了解してねェんだよなァ!!」

「ねぇ隊長、殺しちゃダメってどこまでを指すんだい? 生きてたら手足はなくてもいいのかな?」

「フィーロはあれ壊す方に回れよ。何のために連れて来たと思ってんだ」


 腰まで伸ばした金髪と新緑色の目が特徴のノスタリア成人女性、「糸鋸」ヴィクスン=フィーロ二等戦闘官は、ウルの命令を聞いてわざとらしく肩を竦めた。その隣では彼女と同格であるジェニアト成人男性、赤髪赤目の「天邪鬼」オルコ=ジェメッリ二等戦闘官がつまらなさそうな顔をしている。


「ワタシを連れて来た理由なんて、皆殺し以外に何かあるのかい?」

「今回は人間殺しちゃいけないの!! この間長官直々に叱られたんだかんな!!」

「でもボクらが直接叱られた訳じゃないしー」

「今オレが叱ってんだろ!! わかれ!!」


 と、そこで――実験体の咆哮と、一般都市民の悲鳴が街中に響き渡る。仕方ねェなァ、と溜め息を漏らしたウルは、被っていた外套を脱ぎ捨てる。


「ひゅー、相変わらず筋肉筋肉ぅー」

「我等が隊長殿は背中もお腹もバッキバキだからね」

「心ない称賛は響かねェの!! ぐだぐだ言ってないで、ちゃんと、仕事しろよな!!」


 上半身裸になったウルの、しかして特筆すべき点はその引き締まった体躯ではない。彼の背中には、何より目を引く刀傷が二筋。その下に彫り込まれているのは、とある犯罪組織の構成員である――あったことを示す、刺青だ。


「元『偏執曲芸団(パラノイア・サーカス)』の「狼男」、現『抑止庁』の「踊子」、ウル様のしゅっつじーん!!」

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