騒がしい隣人

ピンポーン。

聖音が家に来てから一週間。その日は玄関のチャイムで目が覚めた。

叔母からの仕送りだろうか。聖音が家に住み着いてから食費を切り詰めて生活していた為、少し心もとない。

「ふぁーい」

印鑑を手に取りドアを開ける。するとそこに居たのは、

「ちわーっす、美園先輩!」

高校時代の後輩、そして現隣人である夜須島やすじまもみじだった。


「いえーい!ご飯をたかりに来ましたー!」

「おお、そうか。悪いがお前に食わすものはない。乞食にでも行っとけ」

「えぇー。私達、共に青春の汗を流した仲じゃないですか!」

「そうだったか?」

「そうやって、水に流そうって魂胆ですねー。うまい私!」

……こいつは、私が高校三年の時に入学してきた。つまり実際一年ぐらいの付き合いになる。たまに、こうやって家に遊びに、というか集りに来る。

「あれ、ちっさい靴がある。これ先輩の靴じゃないですよねー」

目敏いな、靴の隠し忘れは私のミスだが。

しかし、こいつなら大丈夫だろう。寝ぼけ頭でも簡単に騙せる。

「ああ。今、親戚の子を預かっていてな」

「へー、男の子?女の子?名前は?可愛い?」

質問のオンパレードだ。そういえばこいつ、子供好きだったしな。ここはさっさと答えて、お引き取り願おう。

「女の子だ。名前は……」

名字はどうしよう。まあ私の親戚なんだし宮藤姓でも良いか。

「み……宮藤聖音……だ。……そして可愛い」

血の繋がりが無いのに同姓って、結婚してるみたいじゃないか?

いやいや私の考え過ぎだ。そもそも同性婚は、日本に根付いていない……ってそういうことではなく!




私が宮藤さんの家に来てから一週間。その日は騒がしい声で目が覚めた。

休日の朝なのだから、しっかり寝かせて欲しい。私は学校行ってないけども。

声は玄関から聞こえる。宅配便だろうか。それにしては随分騒々しい。寝室に居ても声が届く。

「あれ、ちっさい靴がある。これ先輩の靴じゃないですよねー」

「ああ。今、親戚の子を預かっていてな」

「へー、男の子?女の子?名前は?可愛い?」

……あれ、もしかして話の矛先は、私に向いてない?

「女の子だ。名前は……」

やっぱり私の話っぽい。一応、家出少女という扱いなんだし、秘密にしといたほうが都合良いのに。

……あ、玄関に置いた靴でバレたのか。なら仕方ない。

しかし、宮藤さんがちゃんと誤魔化せるか心配だ。ドアの隙間から、玄関を盗み見しとこう。

「み……宮藤聖音……だ」

え、私の名字いつの間に宮藤になってたの?

家族みたいで良いかも、なんて余韻に浸っていた為、宮藤さんの次の言葉が不意打ちだった。

「そして可愛い」

つんのめる。それは見事につんのめる。

ガタッ。

「「「あ……」」」

三人の声が、シンクロした。

私が転んで大きな音を出したのも、金髪のアホっぽいお姉さんと視線が合ったのも、宮藤さんが私を可愛いと評したのも、私が可愛いと言われ狼狽したのも、全て紛れもない事実であった。

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