8月14日(金) 快晴

 子供の夏休み期間中とはいえ、僕にとっては普通の平日での帰省だったこともあり、妻と子供は日中はまったりと実家で寛ぎながら、涼しくなる頃を見計らっては母親と最寄りのスーパーへの買い出しや、市内でも少し足を伸ばして早めの夕食へ出掛けたりと、僕が仕事をしている間の時間を思い思い過ごしていた。

 僕の実家で過ごす場合、上の子は僕の母や叔母と何かウマが合うようで、仕事の合間に2階の部屋から居間へ降りると、そこに妻と下の子が加わってテーブルを囲んで茶菓子を摘まむ姿は何とも仲睦まじい光景で、後で振り返りながら手元のiPhoneで写真に収めておくべきだったと思った。


 地域によって夏休みへ入るタイミングも違うようで、実家の方では7月いっぱいは通常通りの時間帯で登下校する小中学生の姿が見えた。黄色い安全帽の小学生の目にするのは何年振りだろうか。


 休日のように余り出入りが出来ないが、実家であれば庭先で花火が出来るではないかと、妻の実家でも僕の実家でもスーパーで買ってきた手持ちの花火に火を点した。

 自宅マンション付近ではこのような光景はあまり目にしない。もしかしたら歩き煙草のように市の条例なんかで取り締まられているのかも知れない。

 父親が「ベランダでも花火は出来るのではないか」と言っていたが、隣の居住者とベランダでの煙草で少しゴタついたことがある身としてはとんでもないことだった。街の規模によって地域社会の常識というものも変わる。

 確かに実家であれば庭の周辺くらいであれば上半身裸でうろつけてしまう。だが自宅のマンションだと風呂上りにパンツ一枚でいると、それが自宅のベランダであろうとも向かいのマンションから見えてしまったら全裸でいるようなものかも知れない。


 叔父や叔母が実家の隣の祖母宅へ来ている日の晩に、皆が庭で花火を囲む姿をレンズ越しの被写体にすると周囲が暗すぎてとてもシュールに収まったが、これが真夏の田舎の家庭の姿だと思った。

 都市部へ移り住んでからは忘れてしまっている何かに触れながら回想する日々だ。花火を楽しむ上の子は火というものがまだよく分かっていないようで、ロングスカートのままロウソクを跨いでは、その火をゆらめかせていた。火や水の恐さは明示的に伝えなければならない。


 自宅の庭で楽しむ分には、気が向かなければ花火の後片付けは翌日にも回すことが出来る。バケツを持って出ては水を張ったり、出したゴミをそのまま持ち帰るといった邪魔くささは無い。

 花火の後片付けで思い出されるエピソードとして、未だ僕が上の子の今の歳よりも幼い時、父方の祖父母の家で叔父に花火で遊んでもらった時のことがある。

 父方の祖父母宅は急な坂道を登った先の高台で、近所の家並みが見下ろせる恰好にあった。花火を楽しんだ翌朝、庭から祖母が大きな声で誰となく呼ぶ声が聞こえるので玄関先へ出てみると、目の前の下の家の屋根の上に花火の燃えカスが無造作に散らばっていた。勢いよくバケツの水諸共闇夜に放った叔父の姿が目に浮かんだが、実際は僕達子供が家に入った後の沙汰だったため、その光景を見ていない。

 祖母は当然その家に詫びに行き、叔父は「暗くてそこが屋根だとは分からなかった」と言っていた。今にして思えば明るい時に何度も家を出入りしていたら分かるだろうと思うのだが、実際は向かいの家の間の手前には祖父母宅の壁面を沿うようにちょっとした畑のようなスペースがあり、そこへ放ったつもりだったが屋根にまで達したということだった。もちろん畑でも良くない。


 くだりの叔父というのはいつかの記事に書いた、「キテレツのブタゴリラはドラえもんのジャイアンのように嫌なヤツじゃないだろう?」だとか、「キャプテン翼の日向くんの家は貧乏なんだろう?」と言っていた叔父である。



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