第13話「イヤよ。このエッチヤロー」

-ガチャ


「……くそ、一足遅かったか」


「あら、お帰りー。友李ゆりちゃんもう来てるから、早く来なさい」


 家の玄関を開けると、母が出迎えてくれた。くれたのだが……やはり友李は我が家に来ていた。


 とりあえず、軽く挨拶をしてどこか外に出かけよう。


 決心した俺は、恐る恐るリビングへと向かった。


「た、ただいまー。……よう、友李。久しぶり」


 いたぁ、やつだぁ! 挨拶した瞬間立ち上がったからビビったわ。


「久しぶり、尋斗ひろと。元気にしてた?」


 身長160あるかないかの小さめ悪魔は、長い黒髪をなびかせて笑顔を見せた。


 あれ? これ本物だよな? あぁ、親の前だから猫被ってんのか。


「まぁ、普通かな。あ、俺このあと用事あって……」


「そっかそっか。ほら隣あいてるから座りなよ」


「え、いやだから……」


「座って?」


「はい……失礼させて頂きます」


 あ、目が、目が殺すって言ってる! やっぱりこいつドSのまんまだわ。


 しぶしぶ友李の隣に座った俺は、買ってきた寿司を、やたらデカい木目調テーブルに並べた。


「お前サーモン好きだったよな? 一応多めに買ってきたんだけど」


「うん、ありがとう」


「やっぱり尋斗くんは気の利くいい男だなぁ。どうだ? 友李をもらってくれないか?」


「ちょっとぉ、やめてよお父さん」


 既に酒が回っている友李の父の言葉に、当人は笑いながら答えた。


 あれ、なんでだろう。太ももがつねられてるんだけど。痛い痛い痛い!


 いや、もう一方的にやられていたあの時とは違うんだ。反抗してみせるさ!


「チッ。おい、なんだよ?」


 俺は文句を言うために小声で話しかけた。


「Did you say anything?」


「あ?」


「あらごめん。まだ英語が抜けきってなくてぇ」


 こんのクソアマァ……完全になめてやがるな。


「別になんでもねーよ」


 なにかこいつに一泡吹かせてやる方法はないのだろうか?


「そんな難しい顔してどうしたの? あ、もしかして復讐でもするのかなぁ?」


「お前、そんな余裕ぶってられるのは今のうちだぞ……」


「そっかそっか。じゃあ、特別サービスで私の手の内を教えてあげよう」


 友李は嫌な笑みを浮かべて俺の座っている座布団を指さした。


「その座布団の下……見てみな?」


 なんだよ。音のなるクッションでも仕込んでんのか?


「…………」


「クスクスクス……どぉ? どうするの?」


 悪魔は笑いを必死にこらえながらたずねてきた。


 それもそのはず。座布団の下にあったもの……それは、俺のエロ本なのだから!!!


 バカな……これは特別なケースに入れてベッドの下に入れていたはず!


「少しは大人になったかと思ったけど……まさかこんな成長をしていたとはねぇ」


「おい、お前なんで隠し場所がわかった?」


「電話で寿志ひさし尋問じんもんしたのよ。泣きながらあんたに謝ってたわ」


 そういうことか……! だが、こればっかりは寿志を責めることはできないな。下手したらしばらく学校行けなくなるし……。


「なあ、頼むからもう手を引いてくれよ」


「イヤよ。このエッチヤロー」


 耳元でそういうことささやくんじゃねぇよ!



「あ、そうだ。お前どこの学校行くんだよ?」


「あんたと同じとこよ? どお? 嬉しい?」


 ハッ、なんか高校生活詰んだ気が済んだけど。


 そう思ってからの俺はほぼ放心状態だった。エロ本を隠し通すために座布団の上からは動けないし、リアル賢者タイム。


 

 しばらくしてから双方の両親だけが外に出た。飲み直すために居酒屋に行くとかなんとか。


 つまり、残っているのは俺と友李の二人だけ……。


「さて尋斗、どうはずかしめてほしい?」


「おい、頼むからやめてくれよ!」


 俺は友李の邪悪な言葉と笑みに恐怖していた。というか、辱めるって何をする気なんだよ!

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