第12話「そうね。……はい、これ」

 電話を切ってしばらくしてから、俺は咲良さくらのところへ戻った。


「悪い、お待たせ」


「えぇ、こっちも今プリントし終わったとこ……って! どうしたのよ、その顔!」


 え? 顔? 急に何言い出すんだこいつ。


「すごい青ざめてやつれてるけど……どうしたの?」


「あぁ、悪魔が……帰ってくるだけだから大丈夫」


「なにが大丈夫なの?!」


 母が言っていたお隣の友李ゆりとは、幼馴染だ。あいつは数年前に海外留学に行ったので、俺は平和な毎日を送っていたんだが……。


 なぜあいつのことを悪魔と呼んでいるのか、それは…………だめだ、思い出しただけで怖気おじけづいてしまう。


「とりあえず、もうそろそろ帰ろうぜ。あんまり遅くなるとお前の親も心配だろうし」


「そうね。……はい、これ」


 咲良が差し出してきた手の中には、さっき撮った写真が握られていた。

 

「おぅ、ありがとな。割と……というか、結構楽しかったぜ、今日」

 

「それなら良かった……って! ち、違うわ! 別にあなたを楽しませるためにここにきた訳じゃないんだから、勘違いしないことね!」


 やっぱりツンデレはご健在けんざいなのか……。まぁ、こいつという人間を少しだけ理解すると、この反応も少し可愛げがあるように思える。


「そんじゃあな」


「うん、また付き合ってね……って、付き合うってそういうことじゃなくて! また友達作りの視察に付き合わせてあげるってことよ!」


「はいはい。いつでもよんでくれよ」


 俺はそう答えると、駅に近い方の出口に向かった。


 寿司は帰る途中に買うとして……どうやって友李に会わないようにしようか……。


 もし鉢合はちあわせなんかしたら、その時点で一巻の終わりだ。


 とりあえず、こういう時は仲間に助けを求めるのがいい。そう思った俺は、もう一人の幼馴染である、山出寿志やまでひさしに電話をかけることにした。


 寿志とは中学まで同じで、高校は別々になってしまったが、今でも良く遊ぶ仲だ。


『あー、もしもし。どうした』


 寿志はいつも変わらない様子だった。察するに、奴の帰国をまだ知らないのだろう。


「寿志、落ち着いて聞いてくれ。……奴が、友李が今日帰ってくる……」


『ガタガタガタガタガタガタ!』


「おい、寿志! どうした!」


 電話の向こう側からすごい物音がした。一体なにが。


『わ、悪りぃ……ちょっと失神しかけた』


「なぁ、俺たち殺されたりしないよな?」


『さすがにそこまではないと思うけど……。外国であいつのS度に磨きがかかったとしたら……やばいと思う』


 そう、さっき怖気づいて言えなかったこと。それは友李がとんでもないドSだということ。


 あいつのS度は、幼稚園のころから少しずつ少しずつエスカレートしていき、最終的に俺と寿志が泣きそうになりながら逃げ回るほどのドSになった。


 まじであいつはやばい……留学中に一人 ったと言われても不思議ではない。


「とりあえず、今日はどうにか会わないように頑張るから、明日少し話し合いをしよう」


『わかった……お前、死ぬなよ……』


 通話の最後、寿志は泣き出しそうな声でそう告げた。


 そう、これは俺たちにとって死活問題なのだよ……!


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