第33話

「ママあ、あの人、私のこと天使だって。馬鹿じゃないの。あはは~」

 太一の新しい天使は、スナックのバイトをしている子持ちの若い女だった。

「私、困るって言ったんです~。ろくでなしだけど旦那もいるし、ママの彼氏とそんなことできないって。でも、あのひと、強引だから~」

 幸子はグラスを磨きながら、女の話を聞いていた。

 女の言っている「ママ」が自分のことなのか、他人のことなのか、いまいちよくわからなかった。誰かの物語を聞いてるような、そんな感覚だった。

「あそこの大きい男って、やっぱり欲求もすごいんですね」

 女は勝ち誇ったような顔をしていた。

 どうして? 幸子にはいまいちわからない。

 男ばかりに揉まれてきた幸子には、同性の悪意が理解できないのだった。

 それでも太一が「別れたい」と土下座したときには、体中の血が騒いだ。

「どうして? 遊びじゃないの?」

「俺、遊びなんてできないよ。知ってるだろ」

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