第17話

「泣くな! まだまだこれからだよっ!」

 幸子は最後の力を振り絞って暴れる。

 抑える女たちも必死だ。

 ここで幸子を取り逃がせば、猿は女たちを執拗に攻撃するだろう。

 逃げる幸子を抑える女たちも、いま必死で逃げている。

「毛はまた生えてくるからな。やっぱり、ちゃんと傷をいれないと」

 猿の目は笑っている。

 幸子はその目を凝視した。

 猿の目は遠くを見ているようにうつろで、幸子の目を捕らえていない。

 強い風が吹き、猿の前髪をめくる。そこには不自然な傷跡があった。

 猿はいつか自分がやられたことを仕返しているだけなのかもしれない。

「やめて。お願いだから」

 幸子の体から力が抜ける。

 猿の目はやはり幸子を見ていない。遠い過去を見ているのだろう。

 これでは止めることは無理だ。幸子は観念した。

 そのとき、猿の体がぐらりと横に倒れた。幸子の視界から猿が消える。

 何が起こったのか、幸子にはわからない。

 猿が倒れたほうとは反対側に目をやると、そこには一学年上の増永がいた。

 喧嘩がめっぽう強く乱暴者で、周囲から恐れられている男だ。

「大丈夫か」

 増永は幸子を抑えている女子生徒二人も蹴り上げる。

 腹や背中を蹴られた女たちはその場にうずくまった。

 増永は幸子を抱き起した。

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