第16話

「生意気言えなくしてやる」

 大きな猿が幸子の細い腹にのっている。

 苦しい。吐き気がする。幸子は顔をゆがめた。

 それを認めた猿がにやりと笑い、背に隠していた右手を見せる。

 そこにはカミソリが握られていた。

「何? 何する気よっ!」

 まずは髪の毛だ。

 そう言って笑った猿が、幸子の髪をつかみ、切り落としていく。

 幸子の顔に、刈られた短い毛が降り注ぐ。

「やめてっ!」

 猿は幸子の髪をいたぶり続けた。

 手下二人は暴れる幸子の両側を必死の形相で抑えている。

「次は眉毛だ」

「いやっ!」

 幸子が顔を反らすと、猿は男のように大きな手で幸子の細いあごをつかんで固定した。

「動くと切れるぞ」

 猿が低い声でささやく。幸子は強く目をつぶり、固まった。

 ジョリジョリ。

 肌を伝わり、音が耳に届く。とても大きな音に感じた。

 幸子の皮膚をカミソリがなでる感覚が続く。

「ははっ、はははははっ」

 猿は笑いながら、幸子の眉をそり落とした。

「変な顔ーー!」 

 猿が咆哮した。

 幸子はくやしさのあまり涙を流した。

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