第8話

 若い男は刺激になれていないのか、まだ羞恥が勝るのか、腰をひき、いったんは逃げようとする。

 しかし、幸子が諦めずに男のそこに手を添えると、今度は待ってましたとばかりに硬くなったモノを、幸子の薄く柔らかい手の平に押し付けるのだった。

 そんな男たちに幸子は大きく笑ってみせた。うれしいと言わんばかりに。

 迷いを振り切るのは簡単だ。ほんとはみんなそうしたいんだから。

 やりたくないほうへ誘うのは難しい。

 しかし、したいことをさせるのは簡単。節目節目に満面の笑みを浮かべてやればいい。

 幸子は中学にあがったばかりなのに、男たちの欲望を操作することを完全にマスターしていた。

 その結果の「お金の発生するお仕事」だった。

 男たちは幸子を抱いて金を払うかわりに、仕事を与えたにすぎない。

 ビジネスライクで小心な男たちの、それはわずかばかりのつぐない。まだ女として完成してない少女を一晩自由にした代償の小さな仕事。お情けみたいなものだった。

 須藤はその上前をはねていただけだ。

 母も全く気付いていないわけではない。

 でも、母はこう思っていたはずだ。

 幸子がもっとビッグになったら、この男はいらなくなる。そのときはひどい仕打ちで、こいつを捨ててやろう、と。

 たぬきときつねの化かし合いだった。

 しかし、母の思うようにことは運ばなかった。

 枕営業を連発した幸子の業界での評判はみるみる落ちていった。

 まだ中学生なのに、なんでもないことのように男に体を預ける幸子にオトナたちはすぐに飽き、次第に気味悪がりはじめた。

 幸子は再びテレビの世界から締め出された。

 幸子はまだ十六になったばかりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る