変態店主と怪物店主

まいてい

第1話 変態店主と怪物店主

ーーー登場人物ーーー


北川きたがわ アリル:憧れのゲーム会社に入社したてのロリッ娘イラストレーター


転詞ころし 益男ますお:喫茶店の店主


一応二話目になりますが、この作品だけで完結する短編物です。


興味あったら、一話目も見てみて( `ー´)ノ


1話目↓


https://kakuyomu.jp/works/1177354054895033214


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私の名前はアリル。北川アリル。


今日は休日。初任給を片手に、お買い物を楽しみます。


バスを降りて、私はワクワクしながら歩きます。踊るように歩きます。


私は大きな通りに入ります。私が住んでいる町のそこそこ大きい通り。


「あ!」


私は何かに目を奪われます。


そこにはなんとなんと、私の大好物、抹茶パフェのどアップな写真が映し出されていました。


私は店内を伺うように、そっとのぞき込みます。


……どうも誰もいないようです。どうしてでしょうか?


まぁ、私は人づきあいが苦手なので、むしろ大歓迎なのですが。


そう思い、私は扉を開きます。そっとそっと扉を開きます。


ギィィィィ


年季の入った木の音とともに、扉はゆっくり動きます。


……誰もいません 


あれ? ここってもしかして、異世界?


ってことは、ここで空から声が!


……いえ、聞こえてきたのは男の人の声でした。


「いらっしゃいませー」


ビクッ


私は肩を震わせます。おっかなびっくり震わせます。


ぽっちゃりした男性が、店の奥から姿を現します。


異世界ではありませんでした。残念。


体系は私の上司に似ていたので、ちょっとばかり苦手です。


ああ、そうそう。私の上司ですが、すごくいい人になりましたよ。


それはもう、某国民的アニメの、きれいなジャイ○ンのようにきれいな。


でも、ぽっちゃり体系の人はあの日からちょっとばかり苦手になってしまいました。


「お嬢ちゃん、注文は?」


店主さんは問いかけます。私にやさしく問いかけます。


「パフェ! 抹茶パフェ!」


私は無垢な笑顔を浮かべます。


「あいよ~」


店主さんは、そのまま店の奥へと消えていきます。


ハッ


そして、我に返ります。


私はもう子供ではないのです。


大人のレディーである私は、抹茶パフェごときで目を輝かせるほどちょろい女の子ではないのです。


私はキリっとしたすまし顔で、パフェが来るのを待ちます。


カウンター席に座りながら、足をぶらぶらさせていると、到着しました抹茶パフェ。


トンッ


店主さんがパフェを置きます。


私はといいますと……


「わぁぁぁぁ」


満面の笑み。すまし顔? え、私そんな顔してましたっけ?


「お嬢ちゃん、お勘定の時はまた呼んでね」


「はーい」


そのまま、また店の奥へと消えていきました。


私はパフェをつつきます。チクチク、チクチクつつきます。


「おいしーい」


私は頬に手を当てます。ほっぺが落ちないように、手を当てます。


「お勘定お願いしまーす」


「はーい」


店主さんが、店の奥から姿を現します。


あれ?


私は私は驚きます。目を見開いて、驚きます。


なんとなんと、店主さんの手にはナイフが握られていたのです。


「嬢ちゃん、代金は身体で払ってもらいまーす☆」


はい?


店主さんは気味の悪い笑みを浮かべて私に近寄ります。


身体で? 私が?


一歩、また一歩と店主は私に近寄ります。


犯される。


逃げないと……


しかし、私はその場にへたり込みます。


私はそのまま動けません。怖くて怖くて動けません。


赤ちゃん、できちゃうんでしょうか……


変態上司に続いて変態店主とか、私の人生いいもんじゃありませんね。


「……どうして、ですか?」


私はそっとつぶやきます。震える声で、つぶやきます。


「なにが?」


私はキッとにらみます。鋭い視線でにらみます。


「どうして、身体で払わないといけないんですか!」


私は己を抱くように腕を組んで、店主さんに意見します。


あれ? 私ってこんなに主張できる子でしたっけ?


「お前もしかして、誘ってんの?」


店主さんは、ニヤニヤしながら言います。


あれ?


私はきょとんとした顔をします。そういう意味じゃないんですか?


「あははははは」


店主さんは笑いだします。吹き出すように笑いこけます。


「……何がそんなに面白いんですか?」


「あぁ、お前みたいなちっぱい、興味ないの」


私は呻きます。悲しみながら呻きます。


「……最低」


「お・れ・は」


店主さんは、ナイフを指でコンコンと叩きます。


「こ・ろ・す」


店主さんは、私を指さします。


「お・ま・え・を」


私は涙を浮かべます。あふれる涙を浮かべます。


あぁ、短い人生だった


「死ねぇええええ!」


店主さんはナイフの切っ先を私に向けて、一気に距離を詰めます。


もうだめだ。鋭い刃が私を切り裂こうとしたまさにその時。


私は光に包まれます。明るい光に包まれます。


来たっ! 間違いない! 異世界だ!


-TURN END-


私はそっと目を開けます。ゆっくりゆっくり目を開けます。


そこには、一面に広がる草……はありませんでした。大草原やーい、どこー?


あれ? 前回のパターンから私、異世界転生したはずでは? 


光に包まれたと思ったのですが、目を開けたら、そこはさっきの喫茶店でした。


店主さんは私の目の前で倒れています。


よくわかりませんが、助かったようです。


わたしは恐る恐る立ち上がって、店の外へと向かいます。


……いえ、まだ話は終わってませんよ?


大通りに出ると、誰もいませんでした。


お昼なのに、誰もいません。


さっきまでいた人たちはどこに行ったのでしょう?


わたしはきょろきょろ見回します。


その時、


「おい」


ナイフを持った店主さんが、後ろから話しかけます。


……逃げないと


店主さんも、外を見た途端驚いたような顔をしましたが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべて言います。


「嬢ちゃん、誰もいないみたいだねぇ」


と、その時空から神の声


「「「 北川 アリルさん HP4848 MP∞ 攻撃力1

スキル

   アシッド:塩酸で相手を攻撃します。

   ベイス:水酸化ナトリウムで相手を攻撃します。

   サルト:塩の結晶で攻撃します。


   転詞 益男さん HP ∞ MP0  攻撃力100


   パッシブスキル:永久不滅          」」」


ああ、やっぱりここは異世界ですか。


私はニパーっと笑います。それもつかの間、異変に気付きます。


え、相手体力無限じゃない??


とりあえず攻撃してみます。


「アシッド!」


私は叫びます。


すると、液体が、空から店主さんへと降り注ぎます。


鼻をツーンと刺すようなにおい。塩酸です。


私は、高校時代に聞いていた授業を思い浮かべます。


塩酸は、めっちゃ危険だから気を付けるんだぞ。


先生がそう言ってました。


しかし、店主さんはなにかあったの? といった様子で余裕の表情を浮かべ、私に近寄ります。


「アシッド! アシッド! アシッド!」


私は何度も唱えます。


しかし、てんでダメ、全然効きません。


それどころか、店主さんは塩酸を吸収してどんどん大きくなっていきます。


塩酸はだめか……なら! 私は二つ目の呪文を使います。


「ベイス! ベイス! ベイス!」


しかし、やっぱり店主さんには効いていません。体力無限ですからね。


店主さんは大きな腕を振るいます。


私はそのまま壁に打ち付けられます。


「ぐ……」


と私。痛すぎですよ!


あれ? 


私は何かに気づきます。


もしかして……


私は唱えます。祈るように唱えます。


「ソルト!」


突然、店主さんの頭上から大量の塩が降り注ぎます。


「あああああああああああああ」


店主さんの悲痛な悲鳴が、無人の通りに鳴り響き渡ります。


店主さんはその体積をみるみるうちに縮めて、やがて消えました。


パァァァァ


私は光に包まれます。冷たい光に包まれます。


―TURN END―


目を開けると、そこはもといた喫茶店の中でした。


店主さんはそこにはいませんでした。


私はお店の外に出ます。


お店の看板にはパフェの写真はありませんでした。


代わりに、今月末よりオープンするお店の情報が張り出されています。




ああ? 種明かしですか?


私はベイスを使ったときにあることに気づきました。


あの時の私は、無我夢中で水酸化ナトリウムを使ってダメもとで攻撃しました。


ところが、店主さんの体積は変化していなかったのです。


なんででしょうか?


HCl+ NaOH → NaCl + H₂O


こんな式、見たことありませんか?


そう、塩酸と水酸化ナトリウムが混ざると水と塩ができるのです。


……塩?


私は仮説を立てます。


私の上司はイヌ? の化け物(奴隷)でした。


もしかして、店主さんはナメクジに近い化け物なのでは?


水が増えた分、塩も増えた。ナメクジは水を含むと大きくなるけど(異世界だけの話です笑)、塩を含むと体積が小さくなる。水で体積が膨らんだ後に、塩で体積が縮んだ。だから、結果的に体積が変わらなかった。


そう思った私はソルトを唱えました。


予想通り、店主さんは見る見るうちに小さくなっていき、消滅しました。


体力が無限であろうが、消滅したら倒したことになります。


きっと、塩酸か水酸化ナトリウムだけでは気づけなかったでしょう。


二つそろって初めて新しいことが見えてきたのです。


私はイラストレーターの養成学校で聞いた言葉を思い出します。


色ってとっても不思議なんです。一色しかなければ、一色しかできない。でも、二色そろうと三色できる。一つ新しい色が加わると、新しい世界が一つ加わるのです。

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変態店主と怪物店主 まいてい @mizukisan321

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