第10話 戦犯という生き方

 後日談というか今回のオチ。

 結局バレてしまったストーカーの件。

 ……しかし、よるは以外にもすんなりと受け入れてくれた。


「成程……そういうことなら仕方ないですね、バスケ部ですし。ただ……。」

 よるは恥ずかしげに少し照れて言った。

「"好き"だと言ってくれた事も嘘なんですね……。」

 その一言は、俺の心の中の純粋な部分と恋愛煩悩にクリティカルヒットした。

 ずるいよそれ。


 少し頬が赤く染まりつつある俺を見て、幼馴染は嘲笑している。

 まるで、「そういうのが好きなんだ〜?」とでも言わんばかりの視線が向けられている。


「それにしても、ゆいさんはことさんの事に対して随分ずいぶん必死でしたね。」

「な!?そ、そんなことない……ないよ!」

「どうでしょうね〜。」

バタバタして、落ち着かないゆいは子供みたいによるに反抗している。

 そんな慌てふためく幼馴染と、どこか楽しげなよるを横目に、楚良そらの応急処置に向かった。


近づいてみて気づいたが、楚良そらはブツブツと何か言っていた。

「うぅ、おばぁちゃん。今から俺もそっちに……」

「マジかよ……。」

 今にも死にそうな楚良そらをこの世に引き戻すために使うのは勿体ないが……。

 あいつだけが今は頼りだ。

楚良そら起きろよ。」

「う、うぅ。」

「妹に会いたくないか?」

 ピクっ、と右肩が動く。

 "ロリコンは、死するその瞬間までロリに思考を費やし続ける"と聞いたことがある。

 その性質を利用するのだ。


「妹は中3としては背が小さい方で、清楚せいそ系をかたっているが、家では粗野そやでギャップすごいぞ。だから死ぬな……」

「……こと、それは良いから保健室に連れて行って欲しい……。」

「あっ、ごめん。」

 勝手に熱くなってしまった。

 さすがに、こんな時までロリの事は考えてないか……。

「ちなみに妹の髪形は?」

「ポニテだけど……?」

「そうか……」

 相当な多量出血で脳が働いていないのか、中身がスカスカな会話をしていた。

 最近は妹と話すことが無いから、どうせ家に来たところで会えはしないんだが……。


 制服に楚良そらの血がつかないように、気をつけて保健室に運んだ。

 ちなみにバックとかの荷物はいくに持ってもらって、グローバル化しつつある旧校舎を出る感じだ。


 勿論もちろん保健室では緊急の手当がされたが、傷は浅かったようでその日のうちに帰れるような状態だったそう。

 楚良そらは、ゆいの傷害事件……いや、もはや殺人未遂事件の事を告げ口しなかった。

 やばい、めっちゃ優しいじゃん楚良そら

 とてつもなく瀕死状態に近かったけど。


 そんな時はせわしなく過ぎて、既に時計の針は5時を越していた。


 ─────────────────


 久しぶりにロッカーの中。

 しかも側面が俺の体温で温まってしまったロッカーの中。

どうやらここは今はもう使われてない第二体育倉庫のようで、訪問者は誰もいない。

 しかし彼女は休憩時間を満喫した後また練習に戻り、その練習も終えて戻ってきている。

 そんな彼女は帰り支度をし、制服に着替えて、ロッカーと距離を取った場所でメガネをして本を読んでいた。

 その本のタイトルは……

「『好きな人を振り向かせる恋愛指南しなん!ヤンデレ・メンヘラ編』?なんだそりゃ。」

 明らかに読者の年齢は小学生が推奨されているような本だった。

 いや、小学生にメンヘラはまずいか。


「私、図書館で見た時に"ビビッ"って来たから借りちゃった。今はヤンデレの学習中なんだよ?」

「ヤンデレって学ぶものなのか……?」

「私、努力型だからさ。」

 努力型のヤンデレ?

 今まであんまり見た事ないタイプのキャラクターだと思うけど、新しいヤンデレスタイルを確立してくれるかもな。


 ヤンデレな努力家はバタッ、と本を閉じてまた喋り始めた。

「さっきの台詞せりふも、これに書いてあったんだよ。『"待っててね?"の一言で男は必ず落ちる』って。」

 とてつもない偏見の塊じゃねえか。

 男をなんだと思ってるんだよ、出版社は……。


 「あっ!」と声を出して、唐突に彼女は話の話題を変える。

「あの……お腹空いてませんか?」

「お腹?まぁ、空いてるけど。」

 そういえば春休みのバスケ部の練習は昼まであるって言ってたし、弁当くらい用意してるのかな。

 今日は朝の6時に起きた俺だが、こいつのせいで一日のほとんどが無駄になりそうだ。

「良かった……。愛妻弁当、作ってきたんです。食べましょう。」

「愛妻弁当?」

「ふふ。初めての愛妻弁当ですね〜。はい、口開けて"あ〜ん"ってして下さい。」

 愛妻なのかは置いておいてもそもそもまだ妻じゃないような気もする。

そんな愛妻?に子供じみた表現で口を開けさせられ、卵を食べさせられた。

 彼女のキラキラした目のせいで、逆に煽られているように感じて顔が……全身が恥ずかしさで熱い。

 羞恥しゅうちというやつだろうか……体がぜそうだ。


「顔が真っ赤っかですよ〜、恥ずかしいんですか?」

「うぅ、美味しいけど恥ずい。」

 手作りのお弁当は純粋に美味しかった。

 色とりどりの具材にふわふわのご飯、何故か彼女がローペースで食べさせてくることを除けば完璧な昼食だった。


「卵は変な味とかしませんでしたか?」

「え?いや別に……うぅ?」

 なんか頭がぼーっとして考えるのが億劫おっくうになってきたような気が……。

 これは……朝に彼女と話してた時に感じた感覚と似てる。

 確か、あの後から記憶が無くて気づいたらロッカーに……まさか!


「また、薬入れたのか?」

「ロヒプノール睡眠薬は、たった1じょうしか入れてませんよ?」

「嘘だろ……。」

 だんだん眠気が堪えきれなくなって………。

 また……………かよ…………。


─────ロヒプノール?




 *****

『待っててくださいね?』

 これは……ここは、夢?

 俺は……、なんであいつの事を……考えて……。

 *****

 ふかふかとした大きめのベットの上。

 知らない天井……だと思うが、天井は真っ白だし、知識がない俺にはそもそも見分けがつかない。


「あっ、やっと起きましたか?」

「こ、ここは……?」

 唐突に聞こえた彼女の声に、つい質問を質問で返してしまう。

 寝起きでグチャグチャしてしまった頭を整理するように、体を起こして頭を抱えた。


 私服しふく姿の彼女は、ベットとは少し離れたソファーに据わって"あの本"を読みながら答えた。

「あぁここは新居ですよ、私たちの。」

「新居……?」

 初耳、というか寝て起きたら新居に居るなんて展開自体が見たことも聞いたことも無いし……。

 そもそも、新居探しに言った思い出もない。

 確かに、一人暮らしがしたいとは思ってはいたけど……。


「お父さんに頼んで、1Kの部屋を借りてるんです。是非ぜひ、一緒に住みましょうよ。」

 そう言う彼女は恍惚こうこつとして、「絶対に楽しいですよ!」「一緒に監禁生活しましょうよ。」とかほざいている。

 だが俺は、後ろで組んでいる手に握られたさっきの手錠がチラチラ見えることもあり、気が気じゃなかった。


─────────────────

 ■作者より

 2000PV達成記念のヤンデレ増量キャンペーン。

 第10話 見ていただき本当に

感謝かんしゃ感激かんげき雨霰あめあられ』です。

 ところで雨霰あめあられって何ですか?

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