第2話行く先は霧の中

 霧の深きその中で静かな寝息があった。

 木の幹に背中を預け俯いている。

 その霧の外からその寝息を切り捨てようと狙う者がいた。

 別の気配に振り返り身を伏せれば雨の向こうを赤き光が素早く滑っていく。

 それが見えぬようになってから霧へ踏み込んだ。

 一歩、一歩と近付いて無防備な寝息のそこへ刃を向ける。

 首へ添えいざ斬らんとすその瞬間腹に拳をくらった。

 呻いて後方へ下がれば才造の目はもう開かれていた。

「寝首斬れると思ったか。阿呆。」

 戦う意志なくして才造は霧の奥へと後退り見えなくなった。

 後を追うもその姿も気配もない。

 途端足を引っ張られ宙へ吊り上げられた。

 腕を何か見えぬもので締め上げられ縛られる。

 目の前に歩み出てきたのは才造ではなかった。

 首へ何かをかける動作の後木の間を縫うように立ち去った。

 腕が締め上げられたように、この首も締められるに違いない。

 抵抗するも意味を成さなかった。

 霧の中、またも才造は眠りについた。

 餌を誘き寄せ、糸へ誘導し、巣に縛り付ける。

 その内首が絞まるか頭に血を上らせて…それとも糸を切られ助かるか。

 霧を払う一振りに海斗は糸を引っ張った。

 それによって首は絞め殺される。

 苦しみ酸素を欲す顔を見下ろしながら、強く絞めさっさと殺すことにした。

 才造が目を開けばもう目の前に刃が突き出されており、動こうとすれば刃を傾け脅される。

 海斗が上から糸を滑らせその腕に糸がかかった。

 糸に引かれて腕がそれたところで才造が蹴り上げ刃を手放させた。

 腕を振り下ろされ糸が引かれるが握っていた手を緩め掌を滑らせる。

 海斗の存在にはまだ気付いていなかったらしい反応だ。

 薬を手に一歩を踏んだ時だった。

 霧を払って別の忍が飛び込んできた。

 そいつに薬を撒いて飛び退く。

 その才造の腹から刃が突き出た。

 背から貫かれたようだ。

 引き抜かれ膝をついたと見せかけ霧で形作る狼を飛び込ませ身を回し足を蹴り構えを崩す。

 怯んだところを逃さず顔を鷲掴んで地面へ叩き付けた。

 この程度の風穴ならば慣れている。

 忍刀を首に突き刺し刃を回す。

 抉れる音を聞き取りながら横へ斬り振り向き様に両手で構えれば丁度振り下ろされた刃を受け止めることができた。

 蹴りをくらって後方へ下がり刃に薬を雑に塗りつけた。

 向かってくる一撃を反撃としてまた此方も一撃をぶつける。

 そのぶつかった勢いで塗った薬が飛ぶ。

 刃が薬で滑り下へ降りきったところで突きをかまし飛び退かせ霧を纏った。

 失せる才造に舌打ちをしつつ海斗へ振り向いた。

 そこには切り刻まれた忍の死体が転がるのみである。

 海斗の張っていた糸が血を垂らしようやっと確認できる。

 この様子だと、糸を絡め締め上げられそのままの状態で糸が身を引き裂いたのだろう。

 糸を斬れば奥の方で何かが地面に落下する音が聞こえた。

 警戒しながらも確認すれば既に息のない死体が地面に伏していた。

 糸が繋がっていたのだろう、先に吊られていた奴だ。

 体が少し痺れておることに溜め息をつく。

 わざと刃をぶつけ薬を飛ばすとは。

 巣を抜けて外へ出れば夜影が立っていた。

 待っていたと言わんばかりに。

 才造は最初から最後まであくまで誘き寄せる餌か。

 真っ直ぐ突っ込んでくる。

 忍刀で受け止めたと同時に背から貫かれる。

 刃が中で抉り回されるも動くことはできない。

 夜影を前に少しでも刃をそらせば今度は腹から貫かれることになる。

 だからとて弾こうにも夜影の力が相手ではできそうもない。

 どうにか押し返しにかかればあっさり夜影はゆるりと身を後退させる。

 才造が刃を引き抜き飛び退いたのがわかった。

 一歩下がり刃同士に隙間を作ればわかっていたかのように夜影が刃を引っ込め突然身を伏せた。

 そして現れたのは拳だ。

 その素早い展開に対応できず顔面にそれをくらった。

 吹き飛んだ忍を才造が忍刀で串刺しに受け止める。

 首を貫かれてはもう終わりだ。

 死体となったそれを投げ捨て血を払う。

「これで全員か。」

「取り合えずは。」

「伊鶴と長が近くに来てるということは、また北重に使われたのか。」

 海斗が降りたった。

 それに苦笑しつつ任務は済んだ為戻ることにした。

 殺さなければならない者を殺せれば満足だ。

 それ以上殺しても仕方がない。

 霧が漂う中、誰の目にも捉えられることなく四忍は姿を消した。

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