俊頼髄脳

そういうとこやで

『俊頼髄脳』 源俊頼 平安後期


え?ほんまか?

もう、またや!ほんま、かなんな。


 いやな、なにって、ちょっと前やねんけど、「鷹狩」ちゅーお題で、歌を詠んでん。


ほしたら、その藤原長能はんがや

「霧雨のしとしと降ん中、鷹狩に行ってんけど、だぁれも雨宿りさしてくれへんかったさかい、狩衣、濡れ濡れになってしもたわ」

ちゅー歌詠まはってん。


雨ん中の鷹狩、狩衣どっしりおもなるし、烏帽子ん中まで、水、入ってきよるし、ほんま、気色悪いやん。


長能はん、ほれ、な?

神経、こまいとこあるし、気になりはんにゃろ、な?

そーゆー性分の人や。


で、源道済はんな

「そんなん、べしょべしょになったかて、かめへんって!

雪降って、鷹に積もったかて、払い落として、ガンガンいこや!」

歌、詠まはってん。


まぁ、道済はんな、ここんとこ地方周りやさかい、そら、あんた、自然の中で暮らしてはるよって、雨ふろが、雪ふろが、気にしぃひんとエンジョイ鷹狩や。


せやけど、まぁ、あんた、それはそれ、これはこれやんか。

せや、しょーぶんや。

どっちもええ歌やし、そんなんライフスタイルの問題やんか。


せやけど、なんや、世の中には白黒つけたい人、おんねんな。

もうそんなん、ほっとけや。

余計な世話や。


で、もってった先がや、よりによってあの四条大納言の藤原公任はん。

な、な、せや。

そらあの人、大家やで?

せやけど、昔っから、一言余計やねん。

せや、それや。いきってはんねんな。


まー、ほんま、よりによってや。


ねーちゃん、立后されはった時に、娘はんがまだ女御の藤原兼家はんとこの邸ん前で、

「ここんとこの娘はん、いつか皇后になれはんにゃろかなぁ?」

いわはってん!

大声でや。


な、ほんま、どないやねん。

関係あらへんやん。


そんなんやさかい

「二つともええ歌やけども、そもそも鷹狩ちゅーんは、べしょべしょなってもするもん違います?」

とかいわはってん!


そもそもやちゅうて、あんた。

鷹狩、行こけ?

とかゆーて行って

べしょべしょなってしもたわ。

って話やん?

鷹狩ゆんがどないもんか、ちゃうやん。


それで、道済はん、陽キャやさかい、ヒャッハーとか言うて、踊り出さはってん。

いっや!嘘とちゃうで!ほんまやで!

そのまんま、外に出ていかはって、朱雀大路を、主従ともどもマツケンサンバや。


オーレ!オレオレ〜

あ、オレ?あ、オレ、オレ、オレ、オレ、俺。


何やねん、それ。

ちゃうやん。


道済はんとこの家来採用試験、ジャニーズばりやで、よう知らんけど。


でな。

長能はん、気にしぃやから、もうなぁ。

なぁ?


で、あんたの話や。


で、また、藤原公任はん、長能はんの歌に文句つけはったんか。

ほんまか!


うっわ!最悪やん。


 え?なに?

あ、ごめん、ちょっと待ってや。


え?なんや?お客はんやで。

手短にゆいや?

うん。

え?誰?

長能はんとこから遣い?

え?

ええーっ?!


✴︎ 藤原長能

花山院歌壇で活躍した歌人。

花山院の歌会に参席した長能が詠んだ歌の過ちを、同席していた藤原公任から指摘され、心患い憔悴して亡くなったという逸話がある。




『俊頼髄脳』 源俊頼 平安後期


「霰降る交野のみののかりごろも 濡れぬ宿貸す人しなければ」


「濡れ濡れもなほ狩りゆかむ はし鷹の上毛の雪をうち払ひつつ」


これは、長能、道済と申す歌詠みどもの、鷹狩りを題にする歌なり。

ともによき歌どもにて、人の口に乗れり。

のち人々、我も我もと争ひて、日ごろ経けるに、なほこのこと今日切らむとて、ともに具して、四条大納言のもとにまうでて、



「この歌二つ、互ひに争ひて、今にこと切れず。いかにもいかにも判ぜさせ給へとて、おのおの参りたるなり。」


と言へば、かの大納言、この歌どもをしきりに詠め案じて、


「まことに申したらむに、おのおの腹立てれじや。」


と申されければ、


「さらに。ともかくも仰せられむに、腹立ち申すべからず。その料に参りたれば、すみやかに、承りて、まかり出でなむ。」


と申しければ、さらばとて申されけるは、


「『交野のみのの』といへる歌は、ふるまへる姿も、文字遣ひなども、はるかにまさりて聞こゆ。

しかはあれども、もろもろの僻事のあるなり。

鷹狩りは、雨の降らむばかりにぞ、えせでとどまるべき。

霰の降らむによりて、宿かりてとまらむは、あやしきことなり。

霰などは、さまで狩衣などの濡れ通りて、惜しきほどにはあらじ。

なほ、『狩りゆかむ』と詠まれたるは、鷹狩りの本意もあり、まことにもおもしろかりけむとおぼゆ。

歌柄も、優にてをかし。撰集などにも、これや入らむ。」


と申されければ、道済は、舞ひ奏でて出でにけり。

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あんな、古典読もうと思うねんけど、どない?(超訳古典) 麒麟屋絢丸 @ikumalkirinya

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