今昔物語集

あー!まって!

『今昔物語集』 選者不詳 平安末期


 えっと、あんな、ちょっとええ?


 最近、どない?


なんや、ここ、風、顔に当たらはる感じ?

あ、ちゃうねんな。

そら、よかったわ。


あ!なんや、頭ん飾り、変えた?

あー、おんなし。

ふうん。

いいや、なんや、こう……そう、侘び寂びっぽくなった気ぃしてん。

ごめん、気のせいやったわ。


今日も天気、ええな?


あっ!ここな、なんや日当たり、むっちゃええとか?

いや、なんや、こう、ここんとこ、よう日ぃ当たって、あっちからも、よう見えんのか思うて。

あ!もしかして、ここ、むっちゃ暑い?

え……あっ、そう。


いや、ごめん。うん。

え?

いや、勘違いやってん、ほんまごめん。


え?いや、

え?そんな……

うん。

あ、そう?

ほな、ちょっとだけ、あの、うん、言わせてもらうわな。

気ぃ、悪うせんとってや?


最近、あんたな、なんやちょっと汗臭い気ぃすんねん。

で、なんか、こう、みんな、なんで?って思ってはんねん。


え、いや、ほんま、こっちこそ、ごめん。

ほら、うちら風下やさかい。

ちょっとだけ、ほんまちょっとだけやねんけど、ほら、気になって、な?


え?


え?えっ?!

どなんしてん?


え?なんて?

ええっ!


待って?

ごめん!ほんま、ごめんて!

そら、傷つくやんな?

ごめんな、無神経なこと、ゆーて。

謝るさかい、待って!


あ!

あかん!あかんて!そっち行ったら、

あ!

まって?


そっち行ったら、人間界に下生してまうで!

行かんとって!釈迦くーん!


ああ"――っ!



『今昔物語集』 選者不詳 平安末期


今は昔、釈迦如来、いまだ仏に成り給はざりける時は、釈迦菩薩と申して兜率天の内院と云ふ所にぞ住み給ひける。しかるに閻浮提に下生しなむと思しける時に、五衰を現はし給ふ。


 その五衰と云ふは、一つには、天人は目瞬めまじろくことなきに目瞬く。二つには、天人の頭の上の花鬘は萎むことなきに萎みぬ。

三つには、天人の衣には塵居ることなきに塵・垢を受けつ。四つには、天人は汗ああゆることなきに脇の下より汗出いできぬ。


五つには、天人は我が本の座を替へざるに本の座を求めずして当たる所に居ぬ。


 その時に、もろもろの天人、菩薩この相を現はし給ふ見て、怪しびて菩薩に申して云はく、「我等、今日この相を現はし給ふを見て、身動き心迷ふ。願はくは、我等がためにこの故を宣のべ給へ」と。


 菩薩、諸天に答へて宣はく、「まさに知るべし、もろもろの行はみな常ならずと云ふことを。我、今、久しからずして此の天の宮を捨て閻浮提に生まれなむとす」と。

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