御伽草子・浦島太郎

そら、なぁ、結局家庭の問題ちゃう?

『御伽草子』「浦島太郎」 室町時代


 浦島はんとこな、太郎って息子、おったやんか?

そう、そう、あの角のな、おっちゃんとおかあちゃんと3人暮らしの。


あの子、1人でよう働かはって、ほんま、ええ子やったやん、なぁ?

ほんま、ほんま、えっらい親孝行やった。


せや。

うちらかてソラで言えるほど、よー聞かされたなぁ。


せやけどな、あんたな、太郎の歳、知ってはった?

そう、歳。

っいや!ちゃうねんで!

あの人な、もう24、5やってん。


若、見えてたやんな。


嫁?

いいぃや、いてらはへんかったやん。


うん。

せや、ちょっとエエコ過ぎたんかも知らへんな。よう知らんけど。


でな、太郎がな、前にな、亀に話しかけてはんの、うっことこの子ぉが、聞いてんて!絵島が磯で。


いや、ほんまやねん。

そう、うっとこの子な、嫁のじいさんが、その向こうの浜んとこにおるやん。

丁度、生まれた子、見せにいっててん。

いっや!いやいや!そんな!

息子に似て、ブサイクで!

そんなん元気なんが取り柄や。

いや、まぁ、ありがとな。


でな

「お前んこと、助けてやるさかい、よぉ恩にきなはれや」

ゆうてんの、聞いたゆうねん!

いっや!ほんまやねん!


ほしたらな、次の日ぃやねんけど、今度は舟が沖から来たらしねん。

いや、亀は関係あらへんかも、知らへんけどな。


あ、あんた、ビクにワカメ入ったよ?

ええねん、ええねん。気にしぃひんとってや。


それがな、あんた!

その舟やねんけどな、信じられへんけどな、女がな、1人、乗ってはったとかいうねん!

いっや!うち、聞いただけやから、よう知らへん。


ほれでな、その太郎がな

「え?なんで?」

ゆうやん?な?

ほしたら、その女がな

「沖で乗ってた舟が沈みよって、ほんなら、なんや親切な人が、この舟くれましてん。

うちも、どうなるやら思うたら、ここに着きましてん。」

言いよんねんて。

いや、わからへん。

ほんま海の真んなかで舟くれはる人なんか、聞いたことあらへん。


で、女がな

「おうちに帰りたい」

泣きよんねんて!


え?女?

そら、あんた、えっらい、べっぴんさんやったらしいで?

権兵衛んとこの3番めぇの子ぉが見たゆーててん。


そら、せやろ。

太郎な、クラッときたんやろ。

まぁ、ほら。うん。おぼこいさかいなぁ。


で、その女の舟に、太郎、乗って、沖へ行ってしもてんて。


いや、詳しいことはわからへん。

権兵衛んとこの子、ゆうてまだ三つになったばっかしやさかい。

なぁ。


ほんま、アレやで。

もう、浦島はんとこ、わやや。なぁ?



『御伽草子』「浦島太郎」 室町時代


昔丹後国に、浦島といふもの侍りしに、その子に浦島太郎と申して、年の齢二十四五の男有りけり。明け暮れ海のうろくづをとりて、父母を養ひけるが、ある日のつれづれに、釣をせんとて出でにけり。浦々島々、入江々々、至らぬ所もなく、釣をし、貝を拾ひ、みるめを刈りなどしける所に、ゑしまが磯といふ所にて、亀を一つ釣り上げける。浦島太郎此亀にいふやう、「汝、生有るものの中にも、鶴は千年、亀は万年とて、命久しきものなり。忽ちここにて命をたたん事、いたはしければ、助くるなり。常には此恩を思ひ出すべし」とて此亀をもとの海にかへしける。


かくて浦島太郎、その日は暮れて帰りぬ。又次の日浦の方へ出でて、釣をせんと思ひ見れば、はるかの海上に、小船一艘浮べり。怪しみやすらひ見れば、美しき女房只ひとり波にゆられて、次第に太郎が立ちたる所へ着きにけり。浦島太郎が申しけるは、「御身いかなる人にてましませば、かかる恐ろしき海上に、ただ一人乗りて御入り候やらん」と申しければ、女房いひけるは、「さればさる方へ便船申して候へば、折ふし浪風荒くして、人あまた海の中へはね入れられしを、心ある人有りて、自らをば此はし舟に乗せて放されけり。悲しく思ひ鬼の島へや行かんと、行方知らぬ折ふし、ただ今人に逢ひ参らせさぶらふ。此世ならぬ御縁にてこそ候へ。されば虎狼も、人を縁とこそしさぶらへ」とて、さめざめと泣きにけり。浦島太郎も、さすが岩木にあらざれば、あはれと思ひ、綱を取りて引き寄せにけり。さて女房申しけるは、「あはれわれらを本国へ送らせ給ひてたび候へかし。これにて捨てられ参らせば、わらはは何処へ何となりさぶらふべき。捨て給ひ候はば、海上にての物思ひも、同じ事にてこそ候はめ」と、かきくどきさめざめと泣きければ、浦島太郎もあはれと思ひ、同じ船に乗り、沖の方へ漕ぎ出す。かの女房の教へ従ひて、はるか十日余りの船路を送り、故郷へぞ着きにける。

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