しあわせのおと

トイレから戻ってきた。



ここが何処なのか分からない。



目の前には光る箱が乗った机と椅子が並んでいる。



その中に一つだけ並んでいない机を見つけた。



近付いてみると凄くいやなおとがする。



ずっと聞いて居られない、聞いていると激しい吐き気に襲われる音。



ここが何処かは分からない。



でもここには居られない。



彼女は部屋を飛び出した。



いやなおとから逃げるように。



階段がある。



とにかくいやなおとの聞こえない所へ行きたいと思った彼女は階段を駆け下りた。



階段を降りると何やら広い空間に出た。



ここでもいやなおとが聞こえる。



その広い空間には扉があった。



扉は透明だけど、その先は眩しくて見えない。



でもここには居たくない。



そうしてその扉から飛び出した。



扉を出ると、視界は真っ白。



目が慣れてきて辺りを見回す。



そこは、空が眩しく、いやなおとを出す生き物が歩いている。



何処へ行っても周りの生き物のせいで、いやなおとが耳から離れない。



彼らは、凄く怖い生き物。



ニコニコ近付いて、尖った物を突き刺してくる。



このままではどこへ逃げても彼らに襲われてしまう。



そんなとき、目の前の建物からしあわせのおとが聞こえた。



とてもふわふわしていて、聞いているだけで涙が出てきて、胸が暖かくなる、そんな音。



どこへ行ってもいやなおとに襲われると思ってた。



その建物に入る。



しあわせのおとを聞いていたくて、その音が聞こえる方向へふらふらと近づいて行く。



そこには、階段があった。



しあわせのおとは、ここの上から聞こえてくる。



地面に手を付きながら、おぼつかない足取りで階段を上る。



結構上った。



そこには扉があった。



扉を開けると、そこはしあわせのおとで溢れていた。



涙が出てきて止まらない。



しあわせのおとがする方へする方へと近付くと、胸の安らぎはだんだんと苦しくなった。



ただの苦しさじゃない。



何か、恋をしている時に起こるような、幸せから来る苦しさ。



前へ進むとしあわせのおとはどんどん聞こえてくる。



もっと聞きたい。



もっと聞きたい。



そうしてどんどん近付いた。



近づいていくと、何やら棒のようなものにぶつかった。



これ以上しあわせのおとを聞くのを阻まれているように。



でも聞きたい。



棒の向こうからはとても沢山のしあわせのおとが聞こえてくる。



まだ聞きたい。



もっと聞きたい。



そんな思いから、棒をするっと乗り越えてしまった。



この先に、あの音が。



そして1歩を踏み出した。



すると、とても体がふわふわして、宙に浮いている様な感覚がした。



下を向くと、しあわせのおとが溢れている所にどんどん近づいていく。




突然体がパタッと倒れた。




目を開くとそこはさっきまでのいやなおとが響く世界ではなく、しあわせのおとがあちこちから聞こえる世界だった。



とても、気持ちがいい。



もう、あのいやなおとを聞かなくていいのかと思うと、突然肩の荷が降りるように、体が軽くなった。



ここが何処かなんて、どうでもいい。



ただ、この世界でしあわせのおとを聞いていたい。




それにここは、とても暖かくて気持ちがいい。




さあ、昼寝でもしよう。





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