ある秋晴れの日に

@Ak386FMG

第1話

 外に出してやるとすっかりはしゃいでしまって、短い手足を交互に前に繰り出しながらとんとんと歩いていく。昨日までの雨が嘘のように晴れて、今日は散歩日和だ。空が高い。天国にでもつながっていそうだ。

「おい、ギン、ちょっと待ちなさい」

 そう言ってみるが、ギンは全く言うことも聞かずにとんとんとんとん歩いていく。彼は呆れ、走ってギンの後を追った。


 今ではすっかり彼になついているギンだが、彼がギンを育て始めた当初は、彼に対してひどく怯えていたし、何度も威嚇をしていた。まだ幼いとは言え、自分の親が目の前で血を流して倒れており、目の前に銃を持った人間がいれば、その状況はできたのだろう。彼は、あのとき立ち尽くしてしまったのだ。

 彼は、しばらく立ち尽くした後、目の前で小さなキツネが目の前に横たわったゴンを口で引っ張っていこうとしているのが目に留まった。どれだけ引っ張ろうとしても彼の力ではどうにも引きずっていくことはできない。そのうち向こうも彼がそちらを見ているのに気づいたのか、一度ゴンを口からはなして彼に対して目一杯威嚇した。その目は、悪意に満ちていて、かつ、決意のある目だった。彼は、そのとき急に自分の行ったことを理解し、地面に伏し、初めて涙をこぼしたのだった。唇をかんでもこらえきれない、溢れ出てくるものは、後悔の嗚咽である。時があまりにも残酷に彼の目の前を、ゆったりと真綿で首を締めるように流れていく。それだけに、あの一瞬の出来事が何倍にも濃縮されて責任の重さを突き付けてくる。

 彼はしばらく顔を上げることができなかった。しかし、あの子ギツネの唸り声が聞こえなくなっていて、ふと顔を上げてみると、子ギツネは、またゴンを引っ張ることに集中していた。しかし、どうも力が入っていない。お腹を空かしているのかもしれないと思い、彼がエサになりそうなものを子ギツネの近くに放ってやると、子ギツネは一度彼をにらんだ後、エサの臭いをかいで食べ始めた。

 その後、ゴンを埋めてやり、子ギツネを彼が育てることにしたわけだった。


 今日は、ちょうどゴンを殺してから1年である。ゴンが知ったらどうするかなんて全く分からないけれど、せめてもの償いとして彼の子どもを大切に育てたい。

 もしも許してもらえるなら、と考えたこともあったが、結局自分が楽になりたいだけなのかもしれない。こうしてギンを育てているのも、ゴンを殺した償いということにして気持ちを楽にしたいだけなのかもしれない。自分が勝手に善意だと思っていることで自分を慰めているだけなのかもしれない。

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