上陸

翌日早朝。


「準備はいいかな?」


「大丈夫だよ!」


「妾もバッチリじゃ」


一行は一路シュレー王国最北端にある港町クープを目指し出発した。レイラが言うには クープまで徒歩10日ほどの道のりらしい。


「ふーん。やっぱり色んな所に言ってるんだなレイラって」


「そうね。前も話した通り色んな街や国に行ったからね」


「そう言えばセイナってずっとダンジョンに居たの?」


「おったぞ。もう何年前か・・・恐らく1万年ちょっとは閉じ込められておったはずじゃ」


「閉じ込められるってセイナ何かしたの?私なら1万年とか無理だわ」


「その昔ちょっと大罪と天使とで争いになってのう。それで我らはダンジョンに封印されておったのじゃ」


「天使っているんだな」


大罪があるなら天使や他の悪魔もいるんだろうなと思う反面あまり違和感を感じないあたりファンタジーの世界に馴染んでいるんだなと、自分にちょっと驚きのあるカナト。


「おるおる。あやつらは卑怯で話が通じん堅物じゃ」


「争いの原因は?」


「その当時魔族の八王だった妾達に勇者を送り込んだのが天使共じゃ。勇者を瞬殺した妾達に降伏の使者を寄越してのう。そこで詫びの印として天界の宝を献上したいと申し出てきおった。で・・・その時に渡された首飾りを着けた瞬間ダンジョンの一部屋に飛ばされ首飾りに魔力を吸われたのじゃ」


「せこいな・・・」


「魔力を吸われてある程度すると首飾りがダンジョンコアへと変わり部屋と同化した。後は主様が来るまでずっと独りじゃ。まぁそれを思い出したのは従属契約をした後だったがのう。主様が全て忘れさせてくれたわ」


「なんて言うか・・・天使って神様の尖兵みたいなものでしょ?せこいわ・・・そしてそれでみんな封印されたのならセイナ達簡単過ぎるわよ」


騙す方も騙す方なら騙される方も騙される方だなとカナトとレイラは思った。


「ちなみにその天界ってのは?」


「空にある島から行ける閉鎖空間のような世界じゃ。大きさはここルーデニル大陸ほどらしいがのう」


「行ったことは?」


「妾はない。ただ一説によればだが・・・そこは天界という名のダンジョンではないか?という話じゃ」


「その話の通りなら天使はダンジョン固有の魔物って事になるんだけど・・・」


「事実やつらは死ねば魔石を残す。人間や他の亜人種と違ってのう。妾もそうではないかと思うておる」


「なら神様・・・はダンジョンのボス?」


「レイラなら知っておろう?稀にダンジョンから溢れ出る魔物の存在を」


「ええ。でも・・・」


「信じられん気持ちはわかるがのう」


なんだかとても重要な話じゃないのかこれ?もしもその天界がダンジョンだとして勇者を送り込んだ理由は?・・・普通に考えれば邪悪な魔王を倒すために勇者を送るだろう。でもそれがダンジョンボスやダンジョンマスターなら?


「ダンジョンから抜け出せない自分の代わりに支配させる。か?」


「え?」


「うむ。主様の見解に妾も同意するところじゃ。事実妾は神に創られたサキュバスの最初の1人と言ったであろう?なら何故産みの親であるはずの神はわざわざ勇者を送り込んだ?その後封印するのも辻褄が合わぬ。事実我ら八王は圧政も何もしておらぬしのう」


「ならやっぱり天界にいる神様ってのは別の何かだと思った方がいいかもな・・・いずれその辺も調べないと」


「その時は主様の力になると約束しようぞ」


カナトは考える。そうした話を聞いて、いや、聞いたからこそ自分の存在はなんなのかと。誰がここに連れてきたのか。何のために。思考がぐるぐると渦巻いていく。


「カナト大丈夫?なんか顔色が優れないけど・・・休む?」


「ん?ああ。ちょっと考え事をね。それより魔物も出ないしレイラの言う通り飯にでもする?そろそろお昼だし」


ちらっと交換した腕時計を見る。銀色に輝く正統派高級ブランドの逸品がカナトの左手首にあった。


「その時計ってのも便利だよね。時間が正確というか」


レイラがちらちらと見ている。


「2人も欲しい?」


「欲しいのじゃ。妾も主様とお揃いがいいのじゃ」


「私も欲しいかも!いいの?」


「いいよ。種類がいっぱいあるんだけど・・・んー・・・レイラはあんまりごてごてしてない奴の方が良さそうなんだけど・・・何色が好き?」


結局セイナはカナトの時計のレディースの赤を。レイラは細身で所々にサファイアをあしらった時計にした。どちらとも試しにと念話と位置情報を付与してみるとうまくいったようだ。魔力を込めれば念話ができ、位置情報はマップと同期させて青色表示にした。


そこから地球の道具の話になり、色々と出してみる事になった。レイラは靴の履き心地に感心し、セイナは見てみたいと言ったのでセクシーな下着類を渡すと鼻息荒く森の中で試着したようだ。他にも出していくうちにカナト自身もこんなのあったなとか車やバイク、果ては戦車や戦闘機まで網羅するインターネットショッピングの性能に改めてチートを感じた。


「カナトのいた世界って凄いね!これ全部ヒトが作ったんでしょ?」


そうそう。と頷きながらレイラは⚪padを手にして中の映像を食い入るように見ている。それは日本を紹介する海外向けの動画だった。建ち並ぶビルや走る電車。それらはこの世界ではひとつも見ることの叶わないものだ。


「主様の世界・・・ここまで精密に・・・だからこの下着や玩具も・・・こだわり抜かれた職人魂を感じるのう」


「Tバックを広げて何を言ってるんだお前は」


「よいではないか。主様はこんなのが好きなのかえ?」


「好きだけど今は置いとこ」


レイラが顔を赤らめてちらちら見ている。


「レイラもどうじゃ?こちらの世界の下着よりもよいぞ?」


「ふ、ふーん・・・なら後でちょっと・・・試してみようかな」


ちらちらTバックを見ているのでレイラにもいくつか下着を渡した。真っ赤になりながら受け取っていたけど。


休憩も終わり、さぁ出発という所でカナトは車を交換した。


「これ!走ってたやつ!大きいね」


交換したのはSUVの足回りがしっかりしたオフロード仕様の車だ。


「中は思ったよりも・・・物凄い綺麗じゃのう」


いざ乗り込みエンジンをかける。尚ガソリンは携行缶やポリ缶で買うことも出来るし、タンク内に直接送ることも出来た。


DVDを入れて音楽を流したりアニメや映画を流したりして久しぶりのドライブを楽しむ。道が悪いのでゆっくりだが徒歩や馬車よりも確実に早い。


飲み物やお菓子なんかも出した結果2人は寛ぎまくっている。カナトも缶コーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。傍から見れば旅行に出かけた家族のようにも見えるだろう。


「もう徒歩の移動とか考えられない・・・」


「レイラ・・・しっかりしようか」


「主様・・・妾お昼寝するのじゃ・・・」


「はぁ・・・とりあえず次の分岐を右な?」



ーーーーーーーーーー



「やっと着いたのじゃ」


「んー!風が気持ちいいね!」


港町クープを見下ろせる崖の上で車を停める。眼下には小さいながらも船がいくつか見え、吹き上げる風は潮の香りを運んでくれる。


「あれが群島?」


「そのようだのう」


崖の上からはいくつかの島が確認できた。街まで歩き、情報を集める。


「神殿?んー・・・島にはよく遊びに行ったもんだが神殿なんかあったかな・・・おい!誰か島で神殿見かけたことのあるやつはいるか?」


「神殿?小屋ならいくつかあるけどよ」


「だよなぁ・・・兄ちゃん悪ぃな酒奢ってくれたのによぉ」


酒場で話を聞くが知ってる人はいなかった。その後も聞き込みを続けたものの有力な手がかりは見つからなかった。


「手がかりは無しか」


うーんと砂浜に座り込んで悩んでいるとセイナが声をかけてきた。


「眷属に聞いてみたんじゃが、神殿のある島は北に真っ直ぐ進んだ所にあるようじゃ。ここら辺では1番遠くて小さい島らしい」


「なら行くだけ行ってみる?」


「でも船を借りないと。私行ってこようか?」


「いや大丈夫だ」


「え?でも船が無いと行けないでしょ?」


首を傾ける2人に答えを示すように前方に手を出すカナト。次の瞬間小型のクルーズ船が姿を現す。


「おお!綺麗な船じゃ!」


「凄い綺麗ね!これもカナトの世界の?」


「そう。船舶免許は持ってないけど釣り好きの知り合いが持っててさ。こっそり教えてもらったから操縦もできるんだ」


そういって乗り込む一同。室内も割と豪華だ。船が動き出すと甲板に集まる2人は凄い!凄いよこれ!と騒いでいる。


そうして沖に出ること30分ようやく最初の島が見えてきた。


「この分だと結構かかるかも」


「と言うかどれが1番遠くなのかわからないよねこれ」


「大丈夫じゃ。明らかに小さい島らしいからのう。どちらかと言うと見落とさんようにせねばなるまいよ」


「ほら、一応双眼鏡渡しとくからそれで周りを確認して」


「おお。よく見えるのう」


「わ!すっごい細かいところまで見える!」


「一応魔物も注意して」


「分かったのじゃ」


そうして島を探すこと2時間。


「明らかに小さい島って・・・あれ?」


「ん?どれどれ?・・・あれっぽいな」


「あれじゃろうな」


3人が見つけた島、それは木の1本も生えていない小さな島だった。恐らく縦横それぞれが10m程しかない。


「と言うか・・・島って言っていいのかなこれ」


「んー・・・島の定義がわからぬが・・・恐らくこれじゃろう」


「でも船の上からでも全て見通せるし何もないよね・・・」


何はともあれ一行は上陸するのであった。

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