奇妙な噂のラーメン屋

こばや

第1話 水色の髪

「いらっしゃいませーーー!空いてる席どうぞー!」



 ここはラーメン屋『 カミヤ』。駅前から少し離れているのにも関わらず、そこそこ人気のある個人経営のラーメン屋。今日も店主が一人で切り盛りしている。


 けれどここには奇妙なうわさがあった。『 派手な髪をしている人はこの店には来ない方がいい』というもの。派手な髪の人はちらほら来るが2度来ることはないといった噂である。


 そしてもう1つの噂があった。『 店主はカツラなんじゃないか』といったもの。これに関しては店主があまりにも頻繁ひんぱんに髪色を変える為だ。


「いらっしゃいませーーー!あっ…」

 お客さんが来店してきたのか店主はまた入口の方へ向けて声を出した。するとそこには水色の髪をした綺麗な女性が立っていた。店主は驚いたのか一瞬固まっていた。店の中にいたお客もその女性に見とれてしまっていた。すると、その女性が口を開いた。


「すいません、初めてなんですけど…」

 その女性が初めての来店であるということを伝えると店主は厨房からカウンター席を示した。

「それじゃあ、こちらの席へどうぞ。注文決まりましたら声掛けてください」


 そう言うと店主は荷物置き用のカゴを通路に出て女性に渡した。荷物が汚れないようにという配慮であろう。


 女性が頼んだのはこの店では人気の味噌ラーメン。写真サンプルでは肉厚チャーシュー2枚に野菜たっぷりと600円とは思えないほどの量だ。


 しばらくすると女性が頼んだ味噌ラーメンが出来上がったのか、女性の目の前にラーメンが運ばれた。すると女性が言葉を発した。

「あの…このトッピング頼んでないんですが…」


 女性が示したのはこの店の味噌ラーメンには入っていないはずの半分に割れた半熟卵。


 店主は微笑みながら答えた。

「こちらサービスです。女性のお客様は滅多にいませんし、何よりその水色の髪が珍しくてついサービスしたくなっちゃうんですよ」

 と言っていた。

 そういうことならと女性は食べ始めた。店主は何故かその女性のことを注意深く見ていた。やがて、例の半熟卵を食べたのを見ると、厨房の奥へと下がっていった。厨房の奥に事務室があるのだろうか、キーボードを打つ音がその直後から聞こえ始めた。


 やがて、その女性が食べ終わりお会計と伝えると、店主は小さな紙切れを持って厨房の奥から出てきた。するとその紙を会計の際に女性に渡した。


「あの…これは…」

「急いで今作ったんです。お次はお友達を連れていらしてください。その紙を見せていただければまたサービスしますので」


 その紙には『 女性限定 ラーメンサービス券』と書かれており受け取った女性は困惑していた。


「あのこれは受け取れません!さっきもサービスしていただいてるのに…!」

 当たり前の反応である。ここまでサービスされては怖くて受け取れないのが普通の反応である。


 けれど店主はなにかに取り憑かれたように拘る。女性はやがてめんどくさくなったのか引き下がった。何かを成し遂げたのか、もしくはこれから何か成し遂げることがあるのか、満足気な表情をしている店主。


 しばらくすると、ラーメン屋『 カミヤ』の営業終了時間の22時になった。すると店主は店の片付けをせずそのまま店を閉め、バイクでどこかへと去っていった。スマホのナビに指示されるがままに。



 その日以降、水色の髪の女性をラーメン屋『 カミヤ』で見ることはなくなった。



 そして店主の髪色のバリエーションに水色が加わった…………。






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