奴隷の悪魔と2人の雇われ悪魔 3

 新たに現れた悪魔を交えて戦いが再開した。





冒険者達は曇天の悪魔クードに対し十分な警戒をとって周りを囲んだ。


「悪魔が一匹増えたところで関係ねえ!」


「そっちの塩の方はもう一息だ!こいつは俺たちで相手するぞ!」


そう言いながら二手に分かれ、武器を構える冒険者達。


「タケル!」


レオンがリーダー格の少年の名前を叫んだ。


「俺はこっちの無傷な方をやる!お前は手負いの方をかたずけろ!」


少年はそれを聞いてすぐさま頭の中で思考した。

そしてすぐに結論を出すと、レオンに答えた。


「わかった!だが油断するなよ!」


「へっ、そっちこそ手負いだからって舐めてると急所猫噛みだぞ!」


「それを言うなら窮鼠猫を噛むな」


そうして会話を終えると、二人は互いのターゲットへと視線を向けるのだった。




「手負いだと…?舐めやがって…」


塩の悪魔ソルが一つ目で冒険者達に睨みを効かせた。


「こうなりゃ生け捕りなんか関係ねえ…」


それを聞いて奴隷の悪魔スレイバーが驚いたように首を向けた。


「な!?ちょっと待てそれじゃあ約束と…」


「やかましい!」


何か言おうとしたスレイバーを一蹴すると、憎々しげに続けた。


「こんな連中に舐められて黙ってろって方が無茶な話だぜ?」


すると、ソルの周りに塩の結晶が浮かび上がる。

それは形を変えながら数個の大きな塊へと集合していった。

そしてそれらは自転車の車輪サイズの円盤となり、端から鋭い刃が生えてくる。

そうしてソルの周りには潮でできた5個の巨大な手裏剣が回転しながら旋回していた。


「悪魔を舐めたこと…後悔させてやるよ…!」





悪魔を取り囲む冒険者達。

それを少しもひるむことなく眺める曇天の悪魔クード。


「今更援軍に来たって遅いんだよ!さっきの悪魔はもう瀕死だ!」


「それにこっちにゃギルド最強のSランクの冒険者が二人もいるんだ!」


「亜速剣神のレオンの旦那と、流星のごとく現れギルド史上最年少でSランクに昇格したタケルがいるんだぜ?」


「大人しく投降すりゃあ命は助けてやるよ!」


冒険者達が笑いながらそう話す。

それをクードは黙って聞いていたが、冒険者達が話し終わるとタバコの煙を吐いた。


「おしゃべりは済んだか?」


「…は?」


「言い残すことがもう無いならさっさと始めようか」


その言葉に冒険者達が熱り立つ。


「舐めやがって!公開しても遅えぞ!」


そう叫ぶと、一人の冒険者が剣で切りかかった。

それを何もせずに眺める曇天の悪魔。


最早回避不可能となった剣は悪魔の胴体を袈裟斬りにした。


周りの冒険者達は歓声を上げるが、ただ一人、悪魔を切った冒険者は驚愕の表情を浮かべていた。

確かに自分は目の前の悪魔を切った。

しかし全くの手応えが無い。

だが剣の軌道上には確実に悪魔がいた。


切った男の目の前には胴体から煙を湧き上がらせる悪魔がいた。

そしてその悪魔の上半身は蜃気楼のように揺らいでいた。


「う、うおおおおおおおお!?」


続けざまに何度も剣で切り裂こうと試みる。

しかし手応えも無くただただ実体の無い煙を切っているかのようで、一切のダメージが入っていなかった。

周りで見ていた他の冒険者達もその様子に違和感を持ち始め、武器を構え出す。


切りかかった冒険者が息を切らしていると、悪魔が話しかけてきた。


「気が済んだか?」


ゆっくりと拳を構える悪魔。

切りかかった男は後ずさる。


「なら今度はこちらの番だ」


「ヒイッ!?」


腰を落とし、拳を弓の弦のように引く。

男は剣を構え次に来るであろう攻撃を防ごうとする。


そこ絵悪魔の拳による一撃が放たれた。



周りで見ていた冒険者達のそばを何かが高速で通り過ぎていった。

何かが通り過ぎたと思ったその瞬間、後方より何かが衝突したかのような大きな音が聞こえてきた。


後ろを振り返って見てみれば、木々を折りながらはるか後方まで吹き飛んだ悪魔に切りかかった男がいた。

その手に持っていた剣は粉々に砕け散って折り、口から吐き出される血と鎧ごと貫通してできた腹部へのダメージからも、悪魔が放ったであろう一撃によって絶命していることは明らかであった。


ゴキリ


悪魔が拳を鳴らす音が響く。


「数が多いからな、次はまとめて相手してやる」


そういった悪魔の身体から黒い煙が吹き出す。

悪魔はどこか一点を見つめ、周りの冒険者達はまるで目に入っていないかのようであった。

その視線はレオンに向けられていた。


「…ふーん…近接主体…それも拳とは驚いたが…」


レオンは面白そうに笑うと両手の探検を前に構える。


「問題はない」


「そ、そうだ!こっちにはレオンの旦那がいるんだ!拳一発で一人倒したからっていい木になるなよ!」


冒険者達は各々の武器を構え、ある者は詠唱をした。

そうして一斉に悪魔へとその命を刈り取らんとする攻撃が殺到した。



しかしその攻撃が悪魔へと触れる前に、悪魔のその身体から一気に大量の煙が解き放たれた。





「オラオラオラオラ!!どうした!手負いだから楽勝なんだろお!?」


塩の悪魔の相手をしていたタケルは焦っていた。

自身が最初に立てていた計画がもはや跡形もなく破綻していることもあったが、それよりも…

目の前の護衛として雇われていた悪魔の強さが全くの想定外であった。


今も戦いの場を駆け巡る白い巨大な手裏剣は、体験を持った冒険者へと斬りかかる。

大剣と競り合う瞬間、激しく火花が散る。

それはまるで花火のように暗い森の中を照らした。

しかしそれも長くは続かず、徐々に冒険者が押されていった。

そして気付いた時には体験は受け止めていた部分から冒険者ごと真っ二つにされ、すぐさま次のターゲットを求め、宙を舞った。

一瞬、白い手裏剣が空中で停止するが、その無数の刃には一切の刃こぼれが見えなかった。

それは鉄だろうが魔術師の張った防御結界であろうが容赦なく切り裂いていた。


「リーダー!このままじゃ…!」


タケルに助け絵を求めるような声がかけられる。


「…俺がやる…」


タケルは考えるよりも先にそう口にしていた。


「俺の持つスキルなら勝てるかもしれない」


「ほ、本当ですか…!?」


「ああ…だがたとえ倒せても俺は動けなくなる、悪ければ相打ちで共倒れだ」


タケルの所持するスキルの力は強力だが、その分の代償が大き過ぎる。

だがそれでも、殺らなければこちらが殺られてしまう。

もはや選択は二つに一つだった。


「なんとか隙を作ってくれ!そうしたら俺が奴を倒す!」


「…わかった!信じるぞ!」


そう言うと冒険者は戦いへと戻っていった。


さて…やるぞ…!







 また一人、白い強靭にかかり倒れ伏した。

その胴体は腹部の左側が内臓が見えるほど抉れていた。


「これで半分」


塩の悪魔ソルの周りには新たに作られた白い手裏剣が旋回していた。


塩の悪魔の能力は塩を生み出しそれを操るというシンプルなもの。

しかしその練度は数百年位及ぶ様々な戦いの経験によって高められている。

塩を凝固させれば鋼鉄を超えるような強度になる。

また、塩自体の大きさがかなり小さいため様々な形を作り出すことができる。

さらに自身が生み出した以外の周りの環境から塩を抽出することが可能なため、彼から武器がなくなるということは決して起こらないだろう。


「ふん、こいつらはただ数が多いだけの烏合の衆だ。こいつら全員が曇天が相手してるあの双剣使いレベルなら、もっといい勝負になったろうな」


そう言いながらもまた一人また一人と倒していく。


「ふう…これなら夜明けにはこの森を出られそうだな」


奴隷の悪魔スレイバーが安心して一息つく。


「…いや待て、なんかおかしいぞ」


そう塩の悪魔が言った。

それに首を傾げながらスレイバーは眼前の戦いに目を向ける。


それは確かに異様な光景だった。

先程まで冒険者達は全後衛に分かれ、防御の低い者を盾役などの前衛職が守っていたが、今は前後ろ前衛後衛関係なく、全員が防御を捨てて攻撃していた。

腕を切られようが御構い無しに飛ぶ斬撃や魔法を放ってくる。


先程とは打って変わって悪魔の攻勢が防戦一方へと変化していた。


「まともにやったら勝てねえと思って捨て身戦法か」


そうソルは呟くと塩の手裏剣を自身の近くに集めると、それぞれの円の面を冒険者達に向けた。


「ならまとめてくたばれ…!《塩の独立行進_ソルト・マーチ》!」


塩の悪魔が両腕を前へと掲げると、その周りに浮かぶ塩の手裏剣の中心やその周りから鋭いトゲが飛び出し、触手のようにうねりながら冒険者達へ殺到した。


腹部や喉、腕や足、頭を貫かれる冒険者達。

その場にいた全員が貫かれると、塩の悪魔は広げた手を握りこむ。


「《塩柱葬送》!」


そう叫ぶと一瞬にして冒険者達が塩に覆われた、数秒が経ち、握りこんだ手を開いた。

すると、冒険者達を覆っていた塩がパラパラと地面に落ちる。

そこには塩の塊となった冒険者達の塩の像が立っていた。


「いっちょあがりだ」


「ああー…折角タダで奴隷を仕入れられたのに…勿体無い…」


塩の像を眺めながらスレイバーが残念そうに言った。


「こんな連中奴隷にしたって一銭の価値もつかねえよ」


そう話しながらソルは煙草を取り出し、火をつけようとライターを構える。


しかしタバコに火がつくことはなかった。







煙草を持ったソルの背中を背後からタケルが短剣で突き刺していた。

ソルの手からタバコが滑り落ちる。


「な…いつのテメエ…間に…!」


「隠密系スキルだよ。知らないのか?」


「…あいにく知らんね。なにせこの世界の出じゃあないんでね」


ソルは塩を操り背後のタケルを殺そうとする。


「させない…スキル《吸収》…!」


タケルがスキルを発動させた瞬間、ソルは体から力が抜けていくのを感じた。


「!?」


「僕の固有スキルはちょっと特殊でね…この勝負、もらった!」



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