奴隷の悪魔と2人の雇われ悪魔 2

 サイコロ状の白い塊が宙を舞う。

それも高速で。

弾丸のような速度で。


冒険者が一人また一人と倒れてゆく。


阿鼻叫喚の最中、平然と立っているのは二人の男。

悪魔二人。



「早めに終わらせろよ。朝にはこの国を出なきゃならんのだ」


「そうは言っても思いの外コイツら頑丈なんだよなあ」


そう言いながら目を向ける先は、先ほどから十数の数の塊を捌く一人の少年。

冒険者団のリーダー格の少年であった。



「塊の発射される先を読め!軌道を読むんだ!」


「そ、そうは言っても…!」


「コイツ…!とんでもねえスピードだ!」



時間が経って目が慣れたとはいえ、それでも猛スピードで命を狙う白い弾丸に翻弄されていた。



すると、一人の冒険者の男の顔に向かって白い弾丸が放たれた。

他の塊をさばいていたため、手に持った剣での迎撃が間に合わない。


「なんのお!」


当たる寸前、男は歯で白い弾丸を受け止めた。


「大丈夫か!?」


「こ、これしきなんとも…、…!?」


受け止めた男が口を押さえる。


「!?…ど、毒か!?」


「しょ…」


「しょ?」


「しょっぺえ!!」





くそっ!


護衛がいるなんて報告は聞いていない!

出発前までの監視でも護衛を雇っている姿は確認していない。

しかもここまでの手練れということもだ。

複数の物体を少しのリキャストタイムも無く放つだなんて一体どんな壊れスキルだ…!?


このままでは分が悪い…!

なんとかして現状を打破しなければ…!


すると俺の《念話》のスキルに通信が入った。

その内容を聞いて俺は活路を見出した。




「おい、さっさと終わらせろよ。いつまでやってんだ」


「うるせえ。見てるだけのやつは黙ってろ」


近づいてくる相手には大きな塊を。

遠くの相手には小さな塊を。

遠近でサイズや形状、使用方法を変えながら、徐々に冒険者の数を減らして行く。


しかし腐っても冒険者。

今までの経験を生かして対処する。

そこにスキル《念話》によるサポートが合わさり、より崩しにくくなっていた。






大勢の足音が聞こえる。


「!来たか!」


少年が目を向ければそこには、大勢の人間達が。

その誰もが武装し、周囲を警戒なく観察していた。


その集団の先頭に立っていた赤毛で高身長の軽装の鎧を着た男が、周りを飛び交う白い塊を手に持った短剣で打ち払いながら少年に話しかけた。


「よー、タケル。無事で何よりだな!」


「これのどこが無事に見える、レオン」


「その様子じゃあまだまだ余裕そうだな」


そう言うとレオンと呼ばれた男は両手に短剣を持ち、悪魔達の方に向き直る。

その後ろには50名にものぼる冒険者。

奴隷商の予想逃走経路に配置されていた者が多く、タケルからの連絡を聞きつけ集合したのであった。


「俺が来たからにはもう大丈夫だ。こんなやつさっさと片付けてやるよ」


「油断するなよ。2手3手隠している可能性もある」


「心配しすぎだお前は…それにしても…」


視線の先には馬車の近くで油断なくあたりを見渡す奴隷商の悪魔と、白い塊を飛ばして攻撃する悪魔の姿が。


「俺は今まで色んなところを回って来たが、こんな連中は初めて見たぜ」


「奴等悪魔と名乗っていたが…レオンは悪魔にあったことはあるか?」


レオンはほおをかきながら首をかしげる。


「…モンスターとしての悪魔も召喚獣としての悪魔も…種族としての知力の高い悪魔にもあったことはある。…だが目の前にいるあいつらはそのどれとも当てはまらない異質な存在だ」


タケルはあたりに注意を払いながら話を続ける。


「…もしかしたら奴等はこの世界とは別の世界から来たのかもしれない」


「!…つまりお前と同じ異世界人…いや、異世界”悪魔”ってわけか」


レオンは双剣を構え悪魔達の方へ睨みをきかせる。


「面白ぇ…異世界から来た悪魔がどれだけやれるか試してやるよ…!」








「チッ…援軍が来やがったか」


減らした冒険者を保管するかのように先ほどよりもこちらへの攻撃が激しくなっていった。


「おいおい…まさかとは思うが…負けやしないよな…?」


ギロリとソルが後方にいるスレイバーを睨んだ。


「冗談でも負けるだなんて言うんじゃねえ」


視線を前方へと戻しながら続ける。


「いいか、負けるって口にしたり思い浮かべるようなやつは勝負の舞台にも立てないような軟弱貧弱者だ。だが俺は例えピンチだとしてもそんな言葉は口にしねえ」




「それは俺の方がつよ…」






金属が激しくぶつかるような高い音があたりに響いた。


一体何事かとスレイバーが音の方へと目を向けるが、そこには誰もいない。

すると再び音が聞こえた。

しかし目を向ければそこには何もない。


否、正確にはそこに何者かが”居た”。

しかしあまりの速さに目が、感覚が追いつけないでいた。


高速で動く何者かがソルに対して連続で斬りかかって居た。

それをソルは地面から迫り出た白い塊や、宙に浮いたドアのような形状の白い塊で防いでいた。


それと同時に他の冒険者による攻撃も対処せねばならず、徐々に押し込まれていった。


(おいおいおい…これは絶対にやばい…!)


スレイバーはどうにかしてここを切り抜ける方法はないかと思考した。

しかしどう見積もっても、”不可能”と”負け”の二文字がネオンサインのように警告音を鳴らす。

焦りによる汗と肝が冷える冷や汗が頰を流れる。


ソルも先ほどまでいた位置から徐々に後ろに下がって来ている。

攻撃の手も緩み始める。

防戦一方で身体にかすり傷が増えていく。


さらに…


「あいつが操ってる白いのは全部塩だ!塩の塊だ!」


「はあ!?塩があんなに頑丈なわけないだろ!」


「だがもしそれが本当なら…!」


魔法使いの1人が杖を構える。


《ウォーターベール!!》


魔法使いの放った水の壁に塩の弾丸がぶつかると、そのまま貫通したが、明らかに速度が下がり、大きさも小さくなっていた。


「弱点が分かったぞ!水だ!水系のスキルか魔法を使え!」


敵に塩の悪魔の弱点が知られ、より一層不利となっていった。

手数も減らされジリジリと迫られていく悪魔達。

もはや誰もが陥落も時間の問題と考えていた。



「くそっ…!防衛ミッションじゃなけりゃあもっと楽だったんだが…止むおえん」





「”曇天”!!出番だぞ!」








悪魔二人が危機的状況となっているその上空。


空を漂う雲の上。

浮島のような雲の上に、一つの人影。


それは一つ目を雲の崖下へと向けると、手をコートのポケットに入れたままゆっくりと、背中から倒れていく。


そうして背中が雲に触れ合うと、そのまま勢い止まらずに上空から落下していった。

それは悪魔と冒険者との戦いの場の、真上でのことだった。




1人の魔法使いが悪魔と冒険者との戦いを少し離れたところから眺めていた。

初心者であった彼女は数合わせとしてこの場に居合わせていた。そして現在手持ち無沙汰となっていた。


「これ、私ひつようだったかなあ…」


そう呟いてため息をつく。


すると、いつのまにか空が曇っていた。

先ほどまで月明かりが自分たちを照らしていたのに、今や真っ黒な雲が空を覆っていた。自分たちのいる森の周りだけを。

不思議に思い空の雲をみていると、何か黒い影が見えた。

さらに注視してみると、それは上空から高速で落下していた。

これは異常と仲間達に報告しようと口を開いた瞬間、真っ黒な雲が光る。それに続いて大きな音が聞こえてきた。どうやら雷雲のようであった。


その時彼女は、光る雲を背景にして、落下してきた物体の姿をはっきり捉えた。


それは人だった。






爆音が鳴り響く。


それは空気を、大地を揺らした。


悪魔と冒険者の間に割って入るようにして雷が落ちた。

そして落ちた中心地には巻き込まれた冒険者1人と、その上に1人の男が立っていた。


「おせーぞ、コラ」


「すまん、森にいた他の連中の片付けに時間がかかってしまった」


塩の悪魔と落ちてきた男が何もなかったかのように会話をしているが、周りの冒険者達は固まって動けなくなっていた。


冒険者達の視線の先にいる落ちてきた男は人ではなかった。

雷雲のような黒いコートを見に纏ったそれは、肌が見える部分から覗くパーツはかろうじて人の形をとっていたが、それは不定形の黒い煙のようなものを揺らがせ、一つ目で冒険者達を興味なさげに眺めていた。


男は懐からタバコとライターを取り出すと、口に加え火を付ける。

吸ったタバコの煙を吐くと、冒険者たちへと向き直った。


「曇天の悪魔、クード」


その一言の後、体から黒い煙を吹き上がらせた。



「天地覆て参上した」



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